この課題は ネットワーク上級編 「第2章:基本設計」で学んだ内容をまとめて実践する章末課題です。
IPアドレスやVLANを個別に設計するだけでなく、 複数の設計項目を1つのネットワークとして整合させること が今回のテーマです。
第2章 章末課題|企業ネットワークの基本設計を作成しよう
顧客から提示された要件をもとに、 IPアドレス、VLAN、ルーティング、冗長化、インターネット、 WAN、VPN、DNS・DHCP、監視、ログまでを一貫して設計します。 「なぜその設計にしたのか」を説明できるところまでが今回の課題です。
実務の基本設計では、 「IPアドレス設計だけ」「VLANだけ」を単独で考えることはほとんどありません。
VLAN構成を変更すればIPアドレス設計にも影響し、 冗長化方式を変更すればルーティングや監視項目にも影響します。
今回は、 各設計項目のつながりを意識しながら1つの設計を完成させる ことを目標にします。
この章末課題で確認すること
- 要件からIPアドレス体系を作成できる
- 用途に応じたVLAN分割ができる
- ルーティング方式を選定できる
- 単一障害点を見つけて冗長化できる
- インターネット・WAN・VPNを設計できる
- DNS・DHCPの配置を決められる
- 監視対象とログ保存方針を設計できる
- 設計理由とリスクを顧客へ説明できる
今回のケース
あなたは、ある企業のネットワーク更改案件で 基本設計を担当するネットワークエンジニア です。
現在は、本社と2つの支店がそれぞれ個別にネットワークを構築しており、 拠点間接続やインターネット接続の冗長性が十分ではありません。
今回の更改ではネットワークを整理し、 障害が発生しても業務を継続しやすい構成へ変更します。
想定する全体構成
顧客要件
顧客へのヒアリングの結果、次の要件が確認できました。
利用者・端末
- 本社:約200名
- 支店A:約80名
- 支店B:約40名
- 3年間で約30%の増員を予定
- PCのほかIP電話やネットワーク機器も存在
ネットワーク分離
- 一般社員用
- 技術部門用
- サーバー用
- IP電話用
- ネットワーク管理用
可用性
- 本社のネットワーク機器障害で全社停止させたくない
- インターネット回線障害時も最低限の通信を継続したい
- 拠点間通信も可能な限り継続したい
インターネット
- SaaS利用が多い
- 本社ではインターネット回線を冗長化したい
- 通常時と障害時で経路を切り替えたい
拠点間通信
- 本社・支店間で社内システムを利用する
- 主回線障害時のバックアップ経路が必要
- 業務通信は暗号化したい
アドレス管理
- 利用者PCはDHCPを利用
- サーバーとネットワーク機器は固定IP
- 将来拠点が増えても管理しやすくしたい
監視
- 機器の死活を確認したい
- CPU・メモリ・インターフェースを監視したい
- 回線使用率を把握したい
- 障害時に管理者へ通知したい
ログ
- ネットワーク機器のログを集中管理したい
- 障害発生時の調査に利用したい
- 時刻を統一したい
- 一定期間ログを保存したい
設計では、すべての要件を単純に満たせばよいわけではありません。
コスト、障害時の影響、運用負荷、将来拡張性などを考慮し、 どの方式を採用するか判断してください。
1設計方針を整理する
いきなりIPアドレスを割り当てるのではなく、 まずこのネットワーク全体の設計方針を整理してください。
課題
次の5つについて、今回の設計方針を書いてください。
- 可用性
- 拡張性
- セキュリティ
- 運用性
- 障害時の切り分けやすさ
回答例を見る
- 可用性: 本社の主要機器とインターネット回線を冗長化する。
- 拡張性: 拠点単位・用途単位でIPアドレスをまとめ、将来追加しやすくする。
- セキュリティ: VLANによって用途を分離し、不要な通信を制限できる構造にする。
- 運用性: DHCP、監視、ログを可能な範囲で集中管理する。
- 障害切り分け: 拠点・VLAN・経路・サービス単位で問題箇所を特定しやすい構成とする。
2IPアドレス・VLANを設計する
次に、ネットワークを論理的に分割します。
課題2-1:IPアドレス体系
プライベートIPアドレスを使用し、 本社・支店A・支店Bでアドレス体系を整理してください。
支店A:_________
支店B:_________
課題2-2:VLAN設計
少なくとも次の用途を分離してください。
- 一般社員
- 技術部門
- サーバー
- IP電話
- ネットワーク管理
VLAN ID、用途、サブネット、デフォルトゲートウェイを決めてください。
設計例を見る
例として、拠点単位でアドレスブロックをまとめます。
| 拠点 | アドレス範囲 |
|---|---|
| 本社 | 10.10.0.0/16 |
| 支店A | 10.20.0.0/16 |
| 支店B | 10.30.0.0/16 |
本社のVLANを次のように設計します。
| VLAN | 用途 | サブネット | Gateway |
|---|---|---|---|
| 10 | 一般社員 | 10.10.10.0/24 | 10.10.10.1 |
| 20 | 技術部門 | 10.10.20.0/24 | 10.10.20.1 |
| 30 | サーバー | 10.10.30.0/24 | 10.10.30.1 |
| 40 | IP電話 | 10.10.40.0/24 | 10.10.40.1 |
| 99 | ネットワーク管理 | 10.10.99.0/24 | 10.10.99.1 |
支店についても、 10.20.x.0/24、10.30.x.0/24のように 用途ごとの番号をそろえると管理しやすくなります。
VLAN IDやアドレスそのものに唯一の正解があるわけではありません。
「なぜその単位で分割したのか」「将来増えたときにどう拡張するのか」 を説明できることが重要です。
3ルーティング・冗長化を設計する
課題3-1:ルーティング方式
本社・支店間では複数のネットワークが存在します。
次のどの方式を採用するか考えてください。
- スタティックルーティング
- 動的ルーティング
- 両方を組み合わせる
理由:__________________________
課題3-2:単一障害点を洗い出す
次のどこを冗長化すべきか考えてください。
- コアスイッチ
- デフォルトゲートウェイ
- ルーター
- WAN回線
- インターネット回線
回答例を見る
本社ではネットワーク規模と拠点数を考慮し、 内部経路には動的ルーティングを採用する設計が考えられます。
拠点追加や経路変更が発生した場合、 スタティックルートを多数管理するよりも変更へ対応しやすくなるためです。
また、本社では次の部分を冗長化します。
- コア/L3スイッチを2台構成
- デフォルトゲートウェイを冗長化
- インターネット出口を冗長化
- 主要WANとバックアップWANを用意
ただし、単に2台置くだけでは不十分です。 電源、ケーブル、上位接続先なども含めて 同じ障害原因で同時停止しないか を確認します。
4インターネット・WAN・VPNを設計する
課題4-1:インターネット接続
本社では、インターネット回線を2回線利用できるものとします。
通常時と障害時の経路を設計してください。
障害時: 主回線障害 → ______________
課題4-2:WAN
本社と支店を接続する主回線には、 安定した企業向けWANサービスを利用するものとします。
ただし、主回線障害時にも業務を完全停止させたくありません。
バックアップ経路を考えてください。
課題4-3:VPN
インターネットをバックアップWANとして利用する場合、 どのように通信を保護するか説明してください。
回答例を見る
インターネット
主回線と副回線の2回線を用意し、 通常時は主回線を優先します。
主回線の障害を検知した場合、 デフォルトルートを副回線へ切り替えます。
WAN
通常時は企業向けWANサービスを使用し、 WAN障害時は各拠点のインターネット回線を利用します。
VPN
バックアップ通信ではインターネットを通過するため、 本社と支店間でIPsec VPNを構築します。
構成イメージは次のとおりです。
通常時:本社 → WAN主回線 → 支店
障害時:本社 → インターネット → IPsec VPN → 支店
バックアップ回線が存在していても、 自動切り替えの条件や戻し方が決まっていなければ、 実際の障害時に使えない可能性があります。
障害検知方法、切り替え条件、復旧後の戻り動作 まで設計対象として考えましょう。
5DNS・DHCP・監視・ログを設計する
課題5-1:DHCP
利用者PCのIPアドレスはDHCPで配布します。
各VLANにDHCPサーバーを設置する必要はありません。 どのような構成にするか考えてください。
課題5-2:DNS
社員は社内システムとインターネットの両方を利用します。
DNSをどこに配置し、障害時にどのような影響があるか整理してください。
課題5-3:監視
少なくとも次の項目について、 「何を」「どのように」監視するか決めてください。
| 監視対象 | 監視項目 |
|---|---|
| ネットワーク機器 | 死活 |
| ルーター・スイッチ | CPU・メモリ |
| インターフェース | リンク状態・使用率 |
| WAN・インターネット | 疎通・回線状態 |
課題5-4:ログ
障害調査を行えるよう、 ログの収集方法と保存方針を考えてください。
回答例を見る
DHCP
DHCPサーバーを本社側へ集約し、 各VLANのL3インターフェースでDHCPリレーを使用します。
サーバーやネットワーク機器については固定IPを使用します。
DNS
社内DNSを冗長構成で配置し、 クライアントには複数のDNSサーバーを設定します。
DNS障害は「IP疎通はできるのに名前でアクセスできない」 という形で現れるため、監視対象にも含めます。
監視
- ICMPなどによる機器死活監視
- CPU使用率
- メモリ使用率
- インターフェース状態
- 帯域使用率
- パケットエラー
- WAN回線状態
- VPN状態
ログ
各ネットワーク機器からSyslogサーバーへログを転送し、 一元管理します。
また、すべての機器でNTPを使用し、 ログの時刻をそろえます。
保存期間は、障害調査や社内ポリシーを考慮して決定します。
最終成果物をまとめる
ここまでの回答を、 実際の基本設計案件を意識して成果物へまとめます。
ネットワーク全体構成図
IPアドレス設計表
VLAN一覧
ルーティング設計
冗長化方針
インターネット接続設計
WAN・VPN設計
DNS・DHCP設計
監視項目一覧
ログ収集・保存方針
上級編では「正しい答えを選ぶ」だけではなく、 設計結果を成果物として残せること を重視します。
章末課題の設計回答例
ここからは、今回の要件に対する設計例をまとめます。
これは唯一の正解ではありません。
実際の設計では、予算、既存設備、利用する製品、 回線サービス、セキュリティ要件、運用体制などによって 適切な方式は変わります。
全体方針
| 設計項目 | 設計例 |
|---|---|
| IPアドレス | 拠点ごとにアドレスブロックを分割 |
| VLAN | 利用者・技術・サーバー・音声・管理を分離 |
| ルーティング | 内部は動的ルーティングを中心に設計 |
| ゲートウェイ | 本社主要VLANで冗長構成 |
| インターネット | 2回線による主/副構成 |
| WAN | 企業WAN+インターネットバックアップ |
| VPN | バックアップWANでIPsec VPNを利用 |
| DHCP | サーバーを集約しDHCPリレーを使用 |
| DNS | 複数サーバーによる冗長化 |
| 監視 | 死活・性能・IF・回線・VPNを監視 |
| ログ | Syslogによる集中管理+NTPによる時刻同期 |
論理構成イメージ
基本設計後のネットワークイメージ
顧客への説明課題
最後に、設計者として非常に重要な練習を行います。
顧客から次の質問を受けました。
「今までより構成が複雑になっていますが、 なぜネットワーク機器や回線を2つ用意する必要があるのですか?」
技術用語をなるべく使わず、 30〜60秒程度で説明してください。
説明例を見る
現在の構成では、主要な機器や回線が1つしかない場合、 そこが故障すると複数の部署や拠点で業務が止まる可能性があります。
今回は重要な部分を2系統にすることで、 片方に障害が発生しても、もう片方へ切り替えて 業務を継続できるようにしています。
すべてを二重化するのではなく、 障害時の影響が大きい部分を優先して冗長化する という考え方です。
設計者に必要なのは、 「VRRPを使います」「回線を2本にします」と説明することだけではありません。
その設計によって顧客の業務リスクがどう変わるのか まで説明できることが重要です。
自己評価|第2章の理解度を確認しよう
次の項目について、自分の現在地を確認してください。
- IPアドレスを体系的に割り当てられる
- VLAN分割の理由を説明できる
- ルーティング方式を比較できる
- 単一障害点を見つけられる
- WAN・VPN方式を選べる
- DNS・DHCPの配置を決められる
- 監視項目を設計できる
- ログの利用目的を説明できる
- 設計理由を顧客へ説明できる
修了判定
| 状態 | 目安 |
|---|---|
| もう一度復習 | 設計項目を個別にしか考えられない |
| 第2章修了 | 要件から一通りの基本設計を作成できる |
| 実務レベルへ前進 | 方式の比較、リスク、選定理由まで説明できる |
迷った設計項目があれば、 第2章の記事へ戻って復習してください。
第2章の記事
まとめ
- 基本設計では、各技術を個別ではなく ネットワーク全体として整合させる
- IPアドレスとVLANは、 将来拡張や運用まで考えて体系化する
- ルーティングや冗長化では、 障害時に通信がどう変化するかを設計する
- WANやインターネットでは、 通常時だけでなく障害時の経路も考える
- DNS・DHCP・監視・ログは、 ネットワークを安定して運用するための重要な設計項目
- 「何を採用したか」だけでなく、 「なぜその方式を選んだか」を説明できることが重要
基本設計のゴールは、設定コマンドを決めることではありません。 顧客要件をネットワーク構成へ変換し、 設計理由・リスク・障害時の動作まで説明できる状態にすることです。
第2章を終えた時点で、 IPアドレス・VLAN・ルーティング・冗長化・WAN・VPN・監視・ログを 1つの基本設計としてまとめられることを目標とします。

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