Cisco SD-WANを勉強していると、混同しやすい用語があります。
OMP、BFD、TLOC、IPsecトンネルです。
どれもCisco SD-WANの拠点間通信に関係するため、最初は「結局どれが何をしているの?」となりやすいポイントです。
しかし、この4つは役割を分けて考えるとそれほど難しくありません。
最初に一言で整理すると、次のようになります。
| 用語 | 一言で表すと |
|---|---|
| OMP | どこへ通信すればよいかを教える |
| TLOC | どのWAN回線・出口を使うかを表す |
| IPsecトンネル | 実際にデータを安全に運ぶ |
| BFD | その通信経路が正常か監視する |
つまり、
OMPで経路を知り、TLOCで出口を特定し、IPsecトンネルで通信し、BFDでそのトンネルを監視する
と考えると理解しやすくなります。
Ciscoの公式資料でも、OMPはSD-WANオーバーレイのコントロールプレーンを確立・維持するプロトコルとして説明され、OMPルートはTLOCへ解決されます。TLOCはWANトランスポートへの接続を表し、BFDはWAN Edge間のパスの生存確認や品質測定を行います。
まずは全体像を理解する
たとえば、次のような2拠点があるとします。
拠点A 拠点B
10.1.0.0/16 10.2.0.0/16
│ │
cEdge-A cEdge-B
│ │
├──── Internet ─────────────────────────────┤
│ │
└──── MPLS ────────────────────────────────┘
それぞれのcEdgeにはInternetやMPLSなどのWAN回線があります。
Cisco SD-WANでは、単純に「10.2.0.0/16宛てだからこのルータへ送る」というだけではありません。
SD-WANでは、
「10.2.0.0/16はどの拠点にあるのか」
「その拠点にはどのWAN回線から到達できるのか」
「InternetとMPLSのどちらを使用できるのか」
「その経路は現在正常なのか」
といった情報を組み合わせて通信経路を決定します。
そこで登場するのが、OMP・TLOC・IPsecトンネル・BFDです。
【画像挿入位置】
「OMP・BFD・TLOC・IPsecトンネルの関係図」をここに挿入
OMPとは
OMPはOverlay Management Protocolの略です。
Cisco SD-WANのオーバーレイネットワークにおける、非常に重要なコントロールプレーンプロトコルです。
ざっくり言えば、
「どのネットワークが、SD-WANファブリックのどこに存在するのか」
という情報を交換します。
Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN EdgeとCisco SD-WAN Controllerの間ではOMPによってルーティング情報、TLOC情報、ポリシー情報などが交換されます。
従来型ネットワークに置き換えて考えるのであれば、BGPやOSPFのような経路制御側の役割に近いと考えると理解しやすいでしょう。
ただし、OMPは単純なルーティングプロトコルではありません。
Cisco SD-WANではOMPによって主にOMP Route、TLOC Route、Service Routeといった情報が扱われます。Ciscoの公式資料でも、この3種類がOMPで扱われる主要なルートタイプとして説明されています。
たとえば拠点BのcEdgeが、
10.2.0.0/16
というLAN側ネットワークを持っていたとします。
この情報がOMPを通じてControllerへ通知され、さらに必要なEdgeへ配布されます。
すると拠点AのcEdgeは、
10.2.0.0/16は拠点B側に存在する
ということを知ることができます。
ここで重要なのは、
OMP自身がユーザーの実データを運ぶわけではない
ということです。
OMPはあくまで、
「どこへ行けばいいのかを決めるための情報を交換する」
コントロールプレーン側の仕組みです。
TLOCとは
次に重要なのがTLOCです。
TLOCは、
Transport Locator
の略です。
日本語にすると「トランスポートの位置情報」のような意味になりますが、Cisco SD-WANでは、
WAN Edgeが、どのWANトランスポートへどのように接続しているかを表す識別情報
と考えると分かりやすいです。
TLOCは基本的に次の3つの組み合わせで識別されます。
TLOC
= System IP
+ Color
+ Encapsulation
Ciscoの公式ドキュメントでも、TLOCはこの3要素の組み合わせで一意に識別されるとされています。
System IP
System IPは、そのSD-WAN Edge自身を識別するためのIPアドレスです。
通常のルータでいうRouter IDに近い存在と考えると理解しやすいでしょう。CiscoもSystem IPを通常のルータにおけるRouter IDに似た識別子として説明しています。
たとえば、
cEdge-A
System IP
10.255.255.1
のように設定します。
Color
ColorはWANトランスポートの種類を識別するために使用します。
たとえば、
biz-internet
public-internet
mpls
lte
metro-ethernet
などがあります。
ここで非常に重要なのは、Colorは単純な「色」ではないということです。
Cisco SD-WANにおけるColorは、
どのトランスポートを使用しているのかを論理的に識別するための属性
です。
たとえば、1台のcEdgeがInternetとMPLSの2回線を持っている場合、
Internet → biz-internet
MPLS → mpls
のように区別できます。
Encapsulation
Encapsulationは、データプレーントンネルで使用するカプセル化方式を表します。
TLOCの識別情報には、このEncapsulationも含まれます。
Ciscoの現行ドキュメントでは、TLOCのencapsulationとしてIPsecまたはGREが説明されています。
たとえば、
System IP : 10.255.255.1
Color : biz-internet
Encapsulation : ipsec
という組み合わせが1つのTLOCになります。
つまりTLOCは、
「10.255.255.1というEdgeが持っている、biz-internet側のIPsec通信出口」
を表しているとイメージすると分かりやすいでしょう。
OMP RouteとTLOCの関係
ここがCisco SD-WANを理解するうえで非常に重要です。
OMP Routeには、単に宛先ネットワークだけが存在するわけではありません。
その宛先へ到達するためのTLOCが関連付けられています。
Ciscoの公式ドキュメントでは、TLOCはOMP Routeに対して、BGPにおけるNEXT_HOPのような役割を持つものとして説明されています。
従来のルーティングを単純化すると、
宛先Prefix
↓
Next Hop
ですが、Cisco SD-WANではイメージとして、
宛先Prefix
↓
TLOC
となります。
たとえば、
10.2.0.0/16
↓
TLOC-B
という情報をOMPによって学習します。
そのため、
OMPが「どこへ行くのか」を知らせ、TLOCが「どのWAN側の出口へ向かうのか」を示す
という関係になります。
IPsecトンネルとは
OMPとTLOCによって通信先が分かっても、それだけではユーザー通信は流れません。
実際のデータを運ぶための経路が必要です。
そこで登場するのがIPsecトンネルです。
Cisco SD-WANではWAN Edge間にデータプレーントンネルが形成され、企業のユーザーデータはそのオーバーレイトンネルを通って転送されます。
たとえば、
cEdge-A
│
│
│ IPsec Tunnel
│
▼
cEdge-B
という形です。
つまり、
OMPは通信経路に関する情報を交換するもの
なのに対し、
IPsecトンネルは実際のデータ通信を流すもの
です。
ここを区別すると、コントロールプレーンとデータプレーンの違いも理解しやすくなります。
コントロールプレーン
↓
OMP
データプレーン
↓
IPsecトンネル
TLOCとIPsecトンネルは同じものではない
TLOCとIPsecトンネルも混同しやすいポイントです。
TLOCはWAN側の接続点を識別する情報です。
一方、IPsecトンネルはその接続点同士の間に形成されるデータ通信路です。
たとえば拠点Aと拠点Bに、それぞれInternet回線があるとします。
TLOC-A TLOC-B
biz-internet biz-internet
│ │
└────── IPsec Tunnel ──────────┘
この場合、
TLOC-AとTLOC-Bは両端の「接続先情報」であり、
その間に形成される通信路がIPsecトンネルです。
道路に例えるなら、
TLOC
= インターチェンジ
IPsec Tunnel
= インターチェンジ間の高速道路
のような関係です。
BFDとは
ここまでで、
OMP
↓
経路情報を知る
TLOC
↓
WAN側の出口を特定する
IPsec Tunnel
↓
実際に通信する
という流れが見えてきました。
しかし、もう1つ問題があります。
形成されたIPsecトンネルが、
現在本当に通信できる状態なのか
を確認する必要があります。
そこで使用されるのがBFDです。
BFDは、
Bidirectional Forwarding Detection
の略です。
Cisco SD-WANではWAN Edge間のパスの生存状態を高速に監視するために使用されます。
Ciscoの設計ガイドでは、BFDがWAN Edge間でIPsecトンネルを通して動作し、パスのlivenessを検出するとともに、Loss・Latency・Jitterなどの品質測定にも使用されると説明されています。
つまりBFDは、
「このトンネル、本当に今使える?」
を確認する仕組みです。
BFDはLoss・Latency・Jitterも確認する
Cisco SD-WANにおけるBFDは、単純なUp/Down監視だけではありません。
パスの品質についても確認できます。
代表的なのが、
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| Loss | パケットロス |
| Latency | 遅延 |
| Jitter | 遅延のばらつき |
です。
この情報は、Application-Aware Routingなどで経路を判断するためにも利用されます。CiscoはBFDによるLoss・Latency・Jitterの測定をApplication-Aware Routingの品質判断に使用できると説明しています。
たとえば、拠点間にInternetとMPLSがあるとします。
Internet
Loss : 5%
Latency : 150ms
Jitter : 30ms
MPLS
Loss : 0.1%
Latency : 20ms
Jitter : 3ms
このような品質情報を把握できれば、
「音声通信は品質の良いMPLSへ」
といった制御に利用できます。
このためBFDは、単なる死活監視というよりも、
SD-WANにおけるパス状態・品質監視の重要な仕組み
と理解するとよいでしょう。
OMPとBFDの違い
特に混同しやすいのがOMPとBFDです。
両方とも「経路」に関係しているように見えますが、役割はまったく異なります。
| 比較項目 | OMP | BFD |
|---|---|---|
| 正式名称 | Overlay Management Protocol | Bidirectional Forwarding Detection |
| 主な役割 | 経路・TLOCなどの情報交換 | パスの生存・品質監視 |
| 主なプレーン | コントロールプレーン | データプレーンのパス監視 |
| 主な通信 | EdgeとControllerなど | WAN Edge間 |
| Prefix情報 | 扱う | 扱わない |
| TLOC情報 | 扱う | TLOC間のパスを監視 |
| Loss測定 | 主目的ではない | 可能 |
| Latency測定 | 主目的ではない | 可能 |
| Jitter測定 | 主目的ではない | 可能 |
覚え方としては非常にシンプルです。
OMP
= Routeを知る
BFD
= Pathを監視する
これだけでも、かなり整理できます。
4つの関係を通信の流れで理解する
では、拠点AのPCから拠点Bのサーバへ通信するときに、4つがどのように関係するのかを見てみましょう。
構成は次のようにします。
拠点A 拠点B
PC Server
│ │
10.1.0.0/16 10.2.0.0/16
│ │
cEdge-A cEdge-B
│ │
Internet Internet
まず、拠点BのcEdgeは、自分の拠点に
10.2.0.0/16
が存在することをOMPによってController側へ広告します。
ControllerはOMPを利用して、必要なEdgeへその情報を伝えます。
拠点AのcEdgeは結果として、
10.2.0.0/16
↓
拠点BのTLOC
という対応関係を知ることができます。
次に、そのTLOCを利用するためのデータプレーン経路として、拠点間にIPsecトンネルが形成されます。
そして、そのパスの状態をBFDが監視します。
BFDが正常で、そのパスが利用可能であれば、実際のユーザーデータはIPsecトンネルを通って転送されます。
整理すると、
OMP
「10.2.0.0/16は拠点Bにあります」
↓
TLOC
「拠点BへはこのWAN側の接続点を使います」
↓
IPsec Tunnel
「このトンネルを使って実際にデータを運びます」
↓
BFD
「このトンネルは現在正常に使えます」
という関係になります。
Mermaidで4つの関係を整理する
ブログ内で簡易図を掲載する場合は、次のように表現すると分かりやすいでしょう。
flowchart TB
VS["Cisco SD-WAN Controller"]
A["拠点A<br>cEdge-A"]
B["拠点B<br>cEdge-B"]
TA["TLOC-A<br>System IP + Color + Encapsulation"]
TB["TLOC-B<br>System IP + Color + Encapsulation"]
A <-->|OMP| VS
B <-->|OMP| VS
A --> TA
B --> TB
TA <-->|IPsec Tunnel| TB
TA -.->|BFD監視<br>Loss / Latency / Jitter| TB
この図では、上側がコントロールプレーン、下側がデータプレーンというイメージです。
UnderlayとOverlayも一緒に整理する
OMP・BFD・TLOC・IPsecを理解するときは、UnderlayとOverlayの違いも押さえておくと理解が深まります。
Underlayは、実際のWAN回線そのものです。
たとえば、
Internet
MPLS
LTE/5G
などです。
一方、Overlayは、そのUnderlayの上に構築されるSD-WANの論理ネットワークです。
イメージすると、
Overlay
----------------------
IPsec Tunnel
----------------------
Underlay
----------------------
Internet / MPLS / LTE
----------------------
となります。
TLOCは、
OverlayとUnderlayを結びつける重要な情報
と考えることもできます。
Ciscoの用語集でもTLOCは、EdgeデバイスのWANトランスポートへの接続を識別するOverlay Next Hopとして説明されています。
4つを道路に例えると理解しやすい
最後に、OMP・TLOC・IPsecトンネル・BFDを道路に例えてみます。
| Cisco SD-WAN | 道路に例えると |
|---|---|
| OMP | カーナビ・経路情報 |
| TLOC | 高速道路の入口・出口 |
| IPsecトンネル | 実際に走る高速道路 |
| BFD | 道路状況を監視するセンサー |
たとえば東京から大阪へ向かう場合、
OMPが、
「大阪はこちらです」
と経路を教えてくれます。
TLOCが、
「このインターチェンジから高速道路へ入ります」
という出口・入口を示します。
IPsecトンネルが、
「実際に車が走る高速道路」
です。
そしてBFDが、
「高速道路は通行可能か」
「渋滞していないか」
「品質が悪化していないか」
を監視します。
このイメージを持っておけば、4つをかなり区別しやすくなります。
まとめ
Cisco SD-WANにおけるOMP・TLOC・IPsecトンネル・BFDは、すべて拠点間通信に関係しています。
しかし、それぞれ担当している役割は異なります。
最も重要なのは次の関係です。
OMP
どこへ行くかを知る
↓
TLOC
どのWAN側の出口を使うかを知る
↓
IPsec Tunnel
実際にデータを運ぶ
↓
BFD
そのパスが正常か監視する
特にOMPとBFDが混同しやすい場合は、
OMP = Routeを知る
BFD = Pathを監視する
と覚えておくのがおすすめです。
また、TLOCについては、
TLOC
= System IP
+ Color
+ Encapsulation
という3つの要素をセットで覚えておきましょう。
この4つの関係を理解できると、Cisco SD-WANにおけるコントロールプレーンとデータプレーンの関係がかなり見えやすくなります。
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