この記事は、 「ネットワーク上級編|要件定義・設計・クラウド・自動化へ進む」 の第26回です。
第3章では、BGP、インターネット冗長化、QoS、マルチキャストなど、 大規模・高可用なネットワークで利用される高度な技術を学びます。
マルチキャストとは?ユニキャストとの違い・IGMP・PIMの基礎を解説
同じ映像や音声データを100台、1,000台の端末へ配信するとき、 端末ごとに同じデータを送信すると、送信元やネットワークへ大きな負荷がかかります。 マルチキャストは、必要な受信者が所属するグループへ効率よくデータを配信するための仕組みです。 この記事では、マルチキャスト通信の全体像からIGMP、IGMP Snooping、PIM、 ASM・SSM、設計時の注意点まで順番に解説します。
マルチキャストを理解するときに、 いきなりIGMPやPIMの設定コマンドを覚える必要はありません。
最初に理解すべきなのは、 「誰が受信したいと伝え、どの機器がどこでデータを複製するのか」 という全体像です。
この役割分担が分かれば、IGMP、IGMP Snooping、PIMが なぜ必要なのかを自然に理解できます。
この記事を読み終えるとできること
- ユニキャスト・ブロードキャスト・マルチキャストを区別できる
- マルチキャストが帯域を効率化できる理由を説明できる
- IPv4マルチキャストアドレスの基本を説明できる
- IGMPの役割を説明できる
- IGMP Snoopingの必要性を説明できる
- PIMがルーター間で必要になる理由を説明できる
- ASMとSSMの基本的な違いを説明できる
- マルチキャスト設計で確認すべきポイントを整理できる
マルチキャストとは何か
マルチキャストとは、1つの送信元から、 特定のグループへ参加している複数の受信者に対して 同じデータを効率よく配信する通信方式です。
普通のWebアクセスでは、 PC-AからWebサーバーへ通信するとき、 PC-AとWebサーバーの間で1対1の通信を行います。
このような通信をユニキャストと呼びます。
一方、社内映像配信やライブ配信などで、 同じ映像を多数の端末へ送る場合を考えてみましょう。
100台の端末へユニキャストで送信する場合、 送信元は基本的に100本分のデータストリームを扱うことになります。
マルチキャストでは、 送信元はマルチキャストグループ宛てへデータを送信し、 ネットワーク機器が必要な場所でパケットを複製します。
マルチキャストの重要な考え方
送信元が受信者の人数分だけデータを作るのではなく、 ネットワーク側で必要な方向へ効率よく複製します。
どのような用途で使われるのか
映像配信
同じライブ映像や放送データを 多数の端末へ配信する用途です。
音声・市場情報
音声情報や金融系の市場データなどを 多数の受信者へ同時配信する用途があります。
ネットワーク制御
一部のルーティングプロトコルなど、 ネットワーク制御通信でもマルチキャストが利用されます。
マルチキャストは「大量の端末があるなら必ず使う」という技術ではありません。
アプリケーションがマルチキャストに対応していること、 ネットワーク機器が必要な機能を備えていること、 運用チームが障害対応できることなども考慮して採用します。
ユニキャスト・ブロードキャスト・マルチキャストの違い
マルチキャストを理解するには、 まず3つの通信方式を比較すると分かりやすくなります。
| 方式 | 通信イメージ | 受信者 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ユニキャスト | 1対1 | 指定した1台 | 通常のWeb通信などで広く利用 |
| ブロードキャスト | 1対全体 | 同一ブロードキャストドメイン内の端末 | 必要のない端末にも届く |
| マルチキャスト | 1対グループ | 特定グループの受信者 | 必要な受信者へ効率よく配信できる |
ユニキャストで100台へ配信する場合
UNICAST|受信者ごとに個別の通信を行う
受信者が増えるほど、 送信元や共通区間のネットワーク帯域への負荷も増えます。
マルチキャストの場合
MULTICAST|ネットワークの分岐点で必要な方向へ複製する
「マルチキャストならネットワーク全体で必ず1パケットしか流れない」 という意味ではありません。
受信者へ到達するために分岐が必要な場所では、 ルーターやスイッチがパケットを複製します。
マルチキャスト通信の全体像
マルチキャスト通信では、 大きく送信者・受信者・スイッチ・ルーターの4者を考えます。
MULTICAST FLOW|送信者から受信グループまで
大まかな流れは次のとおりです。
- 受信端末がグループへの参加を要求する IPv4では、受信端末がIGMPを使って、 特定のマルチキャストグループを受信したいことを通知します。
- LAN側で受信者の存在を把握する ルーターはIGMPによって、 どのLANにどのグループの受信者がいるかを把握します。
- ルーター間でマルチキャスト経路を形成する 複数ルーターをまたぐ場合は、 PIMなどのマルチキャストルーティング技術によって転送ツリーを形成します。
- 送信元がグループアドレス宛てへデータを送る 送信元は個々の受信端末のIPアドレスではなく、 マルチキャストグループアドレスを宛先として送信します。
- ネットワークが必要な方向へパケットを複製する マルチキャストを必要としているLANの方向だけへ転送します。
役割を3つに分けて覚えましょう。
IGMP=受信端末とルーターの間で「受信したいグループ」を伝える
IGMP Snooping=スイッチが「どのポートに受信者がいるか」を学習する
PIM=ルーター同士で「どの方向へマルチキャストを流すか」を決める
マルチキャストアドレスの基礎
IPv4では、 224.0.0.0/4がマルチキャスト用のアドレス空間です。
範囲で表すと次のようになります。
224.0.0.0 ~ 239.255.255.255
ただし、 この範囲であれば自由にどのアドレスでも利用してよいわけではありません。
| 代表的な範囲 | 用途 | 考え方 |
|---|---|---|
| 224.0.0.0/24 | ローカルネットワーク制御用途など | 各種プロトコルで使用される予約アドレスが含まれる |
| 232.0.0.0/8 | SSM | 送信元を指定して受信するSource-Specific Multicast |
| 239.0.0.0/8 | Administratively Scoped | 組織内など管理された範囲で利用する用途 |
企業ネットワーク内で独自のマルチキャスト配信を設計するときは、 アドレスの用途やスコープを確認したうえで割り当てます。
「空いていそうだから224.x.x.xを適当に使う」 という設計は避けます。
マルチキャストの宛先は「端末」ではなく「グループ」
ユニキャストでは、
192.168.10.10のように特定端末を宛先として通信します。
マルチキャストでは、
たとえば239.10.10.10というグループアドレスを宛先とします。
このグループへの参加を表明した端末が、 そのグループ宛てのデータを受信します。
IGMPとは何か
IGMPは、IPv4端末が近隣のマルチキャストルーターへ 「このマルチキャストグループを受信したい」 と伝えるために使われるプロトコルです。
ルーターは、すべてのLANへ無条件にマルチキャストを流しているわけではありません。
どのネットワークに受信者が存在するかを把握する必要があります。 そのために使われるのがIGMPです。
IGMP|受信端末からルーターへグループ参加を通知
IGMPの主なバージョン
| バージョン | 主な特徴 |
|---|---|
| IGMPv1 | 初期の基本的なグループメンバーシップ管理 |
| IGMPv2 | Leave Groupなどが追加され、離脱処理が改善 |
| IGMPv3 | 受信したい送信元を指定・除外できるSource Filteringに対応 |
特にSSMでは、 「グループGだけでなく、送信元Sから来るGを受信したい」 という情報が重要になります。
IGMPは、送信サーバーから受信端末までの経路を すべて計算するプロトコルではありません。
主な役割は、 端末のマルチキャストグループ参加情報を管理すること です。
IGMP Snoopingとは何か
IGMPの役割が分かると、 次に疑問になるのがL2スイッチの動作です。
スイッチが受信者の存在を把握していなければ、 マルチキャストフレームを多数のポートへ転送してしまう可能性があります。
IGMP Snoopingとは、L2スイッチがIGMPメッセージを監視し、 どのポートの先にマルチキャスト受信者がいるかを学習して、 必要なポートへ効率よく転送する仕組みです。
IGMP SNOOPING|必要なポートだけへ転送
IGMPとIGMP Snoopingは別物
| 項目 | IGMP | IGMP Snooping |
|---|---|---|
| 主な対象 | 端末・ルーター | L2スイッチ |
| 目的 | グループ参加情報を通知・管理 | 必要なスイッチポートを特定 |
| レイヤーの考え方 | IPマルチキャストのメンバーシップ管理 | L2転送の最適化 |
IGMP Snoopingを有効化する場合は、 Querierの存在や機器の動作仕様も確認します。
「SnoopingをONにすれば必ず正常になる」 と考えず、VLAN単位の構成やルーターとの連携まで確認することが重要です。
PIMとは何か
IGMPによって、 「このLANに受信者がいる」という情報は把握できます。
しかし、送信元と受信者の間に複数のルーターがある場合、 どのルーターを通してマルチキャストを届けるのかを決める必要があります。
そこで利用される代表的な仕組みがPIMです。
PIMは、ルーター間でマルチキャスト転送ツリーを形成し、 マルチキャストパケットを必要なネットワークへ届けるための マルチキャストルーティングプロトコルです。
受信端末と近隣ルーターの間で、 どのグループを受信したいかを管理します。
ルーター間で、 送信元から受信ネットワークまでのマルチキャスト転送経路を形成します。
LAN内のL2スイッチが、 どのポートへマルチキャストを転送すべきか判断するために利用します。
なぜ「Protocol Independent」なのか
PIMの「Protocol Independent」は、 特定のユニキャストルーティングプロトコルに依存しないという意味です。
OSPF専用、BGP専用というわけではなく、 既存のユニキャストルーティング情報などを利用して マルチキャスト転送を判断します。
PIM-SM
現在マルチキャストを学ぶうえで重要なのが PIM Sparse Mode(PIM-SM)です。
Sparse Modeでは、 「ネットワーク全体に大量の受信者がいる」と仮定せず、 マルチキャストを必要としている場所を中心に転送ツリーを形成します。
ASMでPIM-SMを利用する場合、 RP(Rendezvous Point)という重要な役割が登場します。
PIM-SM|RPを中心とした基本イメージ
PIM-SMの詳細では、 Shared Tree、Shortest Path Tree、RP、Join/Pruneなどを学ぶ必要があります。
今回は、 「ルーター間でマルチキャスト転送ツリーを作るのがPIM」 と理解できれば十分です。
RPFという重要な考え方
マルチキャストでは、 同じパケットがループして増殖しないように、 パケットを受信した方向が正しいかを確認する考え方があります。
代表的なのが RPF(Reverse Path Forwarding)チェックです。
ルーターは、 「送信元へ戻る場合に使うべき方向から、このマルチキャストパケットが入ってきたか」 を確認し、期待したインターフェースから受信しているかを判断します。
マルチキャスト障害では、 ユニキャストのルーティングテーブルも重要です。
送信元への経路が想定と異なることで、 RPFチェックに失敗し、 マルチキャストが転送されないことがあります。
ASMとSSMの違い
マルチキャストでは、 「どの送信元からのデータを受信するか」 という考え方によってサービスモデルを分けることがあります。
ASM:Any-Source Multicast
ASMでは、 受信者は基本的にグループGへ参加します。
そのグループへ送信する送信元が複数存在する可能性があります。
「Gを受信したい」
SSM:Source-Specific Multicast
SSMでは、 受信者が送信元SとグループGの組み合わせを指定します。
「送信元SからグループGへ送られるデータを受信したい」
この組み合わせは、 一般に(S,G)と表現します。
| 項目 | ASM | SSM |
|---|---|---|
| 受信指定 | 主にグループG | 送信元S+グループG |
| 代表表現 | (* , G) など | (S,G) |
| RP | PIM-SM構成では使用する場合がある | 基本的にRPを必要としない |
| IPv4の代表範囲 | 構成に応じて選定 | 232.0.0.0/8 |
| 受信元の制御 | 任意の送信元を受けるモデル | 受信したい送信元を明示 |
SSMを利用する場合、 受信端末が送信元を指定できる仕組みとして IGMPv3が重要になります。
マルチキャスト設計で確認すること
マルチキャストを設計するときは、 「PIMを有効にする」「アドレスを決める」だけでは不十分です。
アプリケーション、L2、L3、運用、冗長化まで含めて確認します。
1.送信元と受信者を明確にする
- 送信元サーバーはどこにあるか
- 送信元は何台あるか
- 受信者はどの拠点・VLANにいるか
- 受信者数はどの程度か
- 将来増加する可能性はあるか
2.通信量を確認する
- 1ストリームあたりの帯域
- 同時配信するグループ数
- ピーク時の総通信量
- WAN区間の帯域
- 受信側アクセス回線の帯域
たとえば、 1ストリームが10Mbpsで20グループを同時配信するなら、 最大でどの区間へ何本のストリームが流れる可能性があるかを確認します。
3.マルチキャストアドレスを管理する
グループアドレスを場当たり的に設定すると、 別システムとの重複や運用上の混乱につながります。
少なくとも次のような管理表を作ります。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| システム名 | 社内映像配信 |
| 送信元IP | 10.10.10.20 |
| グループアドレス | 239.10.10.10 |
| UDPポート | 5000 |
| 想定帯域 | 8Mbps |
| 受信VLAN | VLAN 100・200 |
4.L2スイッチの動作を確認する
- IGMP Snoopingを利用するか
- IGMP Snooping Querierが必要か
- どのポートをmrouter portとして認識するか
- VLAN単位でどのグループが存在するか
- 機器がIGMPv3に対応しているか
5.L3ルーターの動作を確認する
- どのインターフェースでPIMを有効化するか
- PIM-SMかSSMか
- ASMの場合、RPをどこに配置するか
- RPを冗長化する必要があるか
- RPFで参照されるユニキャスト経路は正常か
6.冗長化を確認する
ユニキャスト通信が冗長化されていても、 マルチキャストも同じように切り替わるとは限りません。
- 送信元障害時はどうするか
- RP障害時はどうするか
- ルーター障害時にPIMツリーはどう再構築されるか
- 経路切り替え後のRPFは正しいか
- 受信再開まで何秒許容できるか
7.セキュリティを確認する
マルチキャストでも、 「誰でも送信してよい」「誰でも受信してよい」 とは限りません。
- 許可する送信元
- 許可するグループ
- 受信可能なネットワーク
- 不要なグループの遮断
- 境界ルーターから外部へ流出させないための制御
8.監視方法を決める
- IGMPグループの状態
- PIM Neighbor
- マルチキャストルーティングテーブル
- 受信レート
- パケットロス
- インターフェース帯域
- RPの状態
「正常時に何を確認すれば正常と判断できるか」 を設計段階で決めておくことが重要です。
障害が起きてから確認コマンドを探すのではなく、 正常時の状態を記録しておくと比較しやすくなります。
マルチキャスト障害時の確認ポイント
マルチキャスト障害では、 「通信できない」だけでなく、 どこまでデータが届いているのかを分解して確認します。
- 送信元が本当に送信しているか 送信元IP、グループアドレス、UDPポート、 送信レートなどを確認します。
- 受信端末がグループへ参加しているか IGMP Membershipが存在しているか確認します。
- L2スイッチが受信ポートを学習しているか IGMP Snoopingのテーブルを確認します。
- ルーターが受信者を認識しているか IGMP Groupの状態を確認します。
- PIM Neighborが正常か マルチキャストを通すルーター間で PIMの隣接関係を確認します。
- マルチキャスト経路が作られているか (S,G)や(*,G)などのエントリーを確認します。
- RPFが正常か 送信元へのユニキャスト経路と マルチキャストの受信インターフェースを確認します。
- ACL・Firewall・TTLなどを確認する 経路が正しくても、 フィルタリングやスコープの問題で届かない場合があります。
Cisco IOS系で確認するときの代表例
実際のコマンドや出力内容は、 製品・OS・バージョンによって異なります。
マルチキャスト障害で特に重要なのは、 送信元側・受信者側・中継ルーターを分けて確認すること です。
マルチキャストでよくある勘違い
ブロードキャストは同一ブロードキャストドメインの広い範囲へ届ける通信です。 マルチキャストは、特定のグループを受信したい端末へ届ける考え方です。
IGMPは主に受信端末のグループ参加情報を扱います。 複数ルーターをまたぐマルチキャスト転送では、 PIMなどのマルチキャストルーティング機能が必要になります。
IGMPはグループメンバーシップを扱うプロトコルです。 IGMP SnoopingはL2スイッチがIGMPを監視し、 転送先ポートを最適化する機能です。
マルチキャストアドレスには用途ごとの予約やスコープがあります。 アドレス設計を行って管理する必要があります。
マルチキャストでは送信元への経路がRPF判定に関係します。 非対称な経路や経路変更によって、 期待したインターフェースと異なる場合があります。
送信アプリケーション、IGMP、IGMP Snooping、 PIM、ユニキャストルーティング、ACLなど、 複数の要素が連携して成立します。
顧客・上司へマルチキャストをどう説明するか
技術に詳しくない相手へ、 いきなりIGMPやPIMという言葉から説明しても伝わりにくくなります。
最初は、 「同じデータを多数へ配信するときの効率化」 という業務上の意味から説明します。
説明例
「通常の通信では、100台の端末へ同じ映像を配信する場合、 端末ごとに個別の通信を行う必要があります。 マルチキャストでは、サーバーからネットワークへ1つの配信を送り、 ネットワーク機器が必要な場所で複製します。 そのため、大人数へ同じ映像やデータを配信するときに、 サーバーや共通回線の負荷を抑えやすくなります。」
技術を業務効果へ変換する
| 技術的な話 | 顧客へ伝える意味 |
|---|---|
| マルチキャスト配信 | 多数の利用者へ同一データを効率よく配信できる |
| IGMP Snooping | 不要な端末側へ大量の配信データが流れることを抑える |
| PIM | 複数拠点・複数ネットワークをまたいで必要な場所へ配信する |
| SSM | 想定した送信元からの配信を明確に指定できる |
| 冗長化設計 | 機器障害時にも映像・データ配信を継続しやすくする |
上級エンジニアには、 「PIMを設定できます」だけでなく、 「なぜマルチキャストが必要で、導入すると何が改善されるのか」 を説明する力が求められます。
マルチキャストで使われる英語表現
よく使われる単語
| 英語 | 意味 |
|---|---|
| Multicast | マルチキャスト |
| Multicast group | マルチキャストグループ |
| Multicast source | マルチキャスト送信元 |
| Receiver | 受信者 |
| Group membership | グループ参加情報 |
| Join | 参加・参加要求 |
| Leave | 離脱 |
| Source filtering | 送信元フィルタリング |
| Rendezvous Point | RP・ランデブーポイント |
| Reverse Path Forwarding | RPF・逆方向経路確認 |
| Shortest Path Tree | 最短経路ツリー |
障害調査で使える表現
The receiver is not joining the multicast group.
受信端末がマルチキャストグループへ参加していません。
The multicast route is not installed.
マルチキャスト経路が登録されていません。
The RPF check is failing.
RPFチェックに失敗しています。
Please verify the PIM neighbor relationship.
PIMネイバー関係を確認してください。
理解度チェック
用語を暗記するだけでなく、 IGMP・IGMP Snooping・PIMの役割を区別できるか確認しましょう。
問題1.マルチキャストの説明として最も適切なものはどれですか。
- 必ず1台の送信元と1台の受信者だけで通信する方式
- 同一VLANのすべての端末へ必ずデータを届ける方式
- 特定の受信グループへ同じデータを効率よく配信する方式
- インターネットへ接続するためだけに利用する方式
解答を見る
マルチキャストでは、 マルチキャストグループに参加している複数の受信者へ データを効率よく配信します。
問題2.受信端末がIPv4マルチキャストグループへ参加したいことを 近隣ルーターへ伝えるために使われる代表的なプロトコルはどれですか。
- BGP
- IGMP
- ARP
- STP
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IGMPはIPv4マルチキャストのグループメンバーシップ管理に利用されます。
問題3.IGMP Snoopingの主な目的はどれですか。
- ルーター間の最短経路を計算する
- マルチキャスト送信元へIPアドレスを配布する
- L2スイッチが必要なポートへマルチキャストを転送する
- インターネット回線を冗長化する
解答を見る
IGMP Snoopingでは、 スイッチがIGMPメッセージを監視して 受信者が存在するポートを把握します。
問題4.複数のルーターをまたいでマルチキャストを転送するときに 使用される代表的なプロトコルはどれですか。
- PIM
- DHCP
- HTTPS
- VRRP
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PIMはルーター間でマルチキャスト転送ツリーを構築するために使われます。
問題5.SSMの説明として正しいものはどれですか。
- 送信元を考慮せず、すべてのブロードキャストを受信する
- 送信元SとグループGを指定して受信する
- 必ずRPを経由しなければ通信できない
- IPv4ではユニキャストアドレスを宛先として利用する
解答を見る
SSMでは、 送信元SとグループGの組み合わせである (S,G)を指定して受信します。
問題6.マルチキャストパケットがRPFチェックに失敗しています。 最初に確認したい情報として適切なものはどれですか。
- 送信元IPへのユニキャストルーティング情報
- DNSサーバーのMXレコード
- Webブラウザのキャッシュ
- DHCPリース時間だけ
解答を見る
RPFでは送信元へ戻る方向を確認するため、 送信元IPへのルーティング情報が重要です。
実践演習:社内映像配信ネットワークを設計する
あなたは、 本社から東京・大阪の2拠点へ社内ライブ映像を配信する ネットワーク設計を担当しています。
要件
- 本社に映像配信サーバーが1台ある
- 配信サーバーのIPアドレスは10.10.10.20
- 東京拠点に受信端末が80台ある
- 大阪拠点に受信端末が50台ある
- 1ストリームあたり8Mbps
- 本社・東京・大阪の間にはルーターが存在する
- 映像を視聴しない端末には不要な映像トラフィックを流したくない
- 将来的に拠点が追加される可能性がある
演習用構成
課題1.ユニキャストとマルチキャストを比較する
130台へ同じ8Mbpsの映像を配信するとします。
単純に端末ごとのユニキャスト配信を行った場合、 送信サーバー側では理論上どの程度の送信量になるか計算してください。
解答を見る
8Mbps × 130台 = 1,040Mbps
単純計算では約1.04Gbpsです。 実際にはプロトコルオーバーヘッドなども考慮する必要があります。
マルチキャストであれば、 共通区間では受信者数分のストリームを サーバーが個別生成する必要がなくなります。
課題2.必要な技術を整理する
次の役割を実現するために、 IGMP・IGMP Snooping・PIMのどれが必要か考えてください。
| 要件 | 必要な技術 |
|---|---|
| 端末が「映像を受信したい」とルーターへ伝える | ______ |
| 視聴している端末があるスイッチポートだけへ映像を流す | ______ |
| 本社から東京・大阪までルーターをまたいで転送する | ______ |
解答を見る
- 端末 → ルーターへの参加通知:IGMP
- L2スイッチの転送最適化:IGMP Snooping
- ルーター間のマルチキャスト転送:PIM
課題3.設計時に確認すべき項目を挙げる
上記要件だけでは、 実際のマルチキャストネットワークを設計するには情報が不足しています。
追加で確認すべき項目を5つ以上考えてください。
2.________________________
3.________________________
4.________________________
5.________________________
解答例を見る
- ASMとSSMのどちらを採用するか
- 使用するマルチキャストグループアドレス
- UDPポート番号
- 同時配信するチャンネル数
- IGMPのバージョン
- IGMP Snooping対応状況
- PIMを有効化するインターフェース
- ASMの場合のRP配置
- RPやルーターの冗長化方式
- 障害時に許容できる映像停止時間
- 送信元へのユニキャストルーティング
- WAN回線の帯域
- ACL・Firewallなどの通信制御
- 監視項目と障害切り分け方法
課題4.障害を切り分ける
東京拠点では映像を受信できますが、 大阪拠点だけ映像を受信できません。
本社の配信サーバーは正常に送信しています。 どの順番で調査するか考えてください。
2.________________________
3.________________________
4.________________________
5.________________________
解答例を見る
- 大阪の受信端末がIGMP Joinしているか確認する
- 大阪側スイッチのIGMP Snooping状態を確認する
- 大阪側ルーターにIGMP Groupが存在するか確認する
- 大阪側ルーターのPIM Neighborを確認する
- マルチキャストルーティングテーブルを確認する
- 送信元10.10.10.20に対するRPFを確認する
- 大阪方向のACL・Firewall・インターフェース状態を確認する
「東京で見えるからサーバーは正常」 という情報を使い、 大阪側の受信経路へ調査範囲を絞っていきます。
自分の言葉で説明する課題
後輩エンジニアから、 「IGMPとPIMって何が違うんですか?」 と質問されました。
1分程度で説明してください。
PIMとは、____________________________。
説明例を見る
IGMPは、IPv4の受信端末が 「どのマルチキャストグループを受信したいか」を 近隣のルーターへ通知するためのプロトコルです。
PIMは、複数のルーターをまたいでマルチキャストを届けるために、 ルーター同士でマルチキャスト転送ツリーを形成するプロトコルです。
簡単に言えば、 IGMPは「誰が受信したいか」、 PIMは「そこまでどう届けるか」 を担当します。
まとめ
- マルチキャストとは、 1つの送信元から特定の受信グループへ 同じデータを効率よく配信する通信方式
- ユニキャストは1対1、 ブロードキャストは1対広範囲、 マルチキャストは1対グループ
- IPv4のマルチキャストアドレスは224.0.0.0/4
- IGMPは、 受信端末のマルチキャストグループ参加情報を 近隣ルーターへ伝えるために使う
- IGMP Snoopingは、 L2スイッチが受信者の存在するポートを学習し、 不要な転送を抑えるために使う
- PIMは、 ルーター間でマルチキャスト転送ツリーを形成する
- PIM-SMではRPやRPFなどの概念が重要になる
- ASMは主にグループGを指定し、 SSMでは送信元SとグループGを指定する
- IPv4 SSMでは232.0.0.0/8が利用される
- マルチキャスト設計では、 アドレス、帯域、IGMP、IGMP Snooping、PIM、 冗長化、RPF、監視まで一体で考える
マルチキャストを理解するときは、 「誰が受信したいと伝えるのか」 「L2でどこへ転送するのか」 「L3でどう届けるのか」 の3段階に分けて考えると整理しやすくなります。
上級編では、 要件定義から基本設計、BGP、QoS、マルチキャスト、 クラウド、セキュリティ、自動化、 設計レビュー・顧客提案までを順番に学びます。

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