この課題では、第31回〜第40回で学んだクラウドネットワークの知識を組み合わせ、 企業のオンプレミス環境とクラウドを接続するネットワーク構成 を設計します。
第4章 章末課題|企業のクラウドネットワークを設計しよう
仮想ネットワーク、サブネット、ルーティング、ロードバランサー、 NAT Gateway、VPN・専用線、DNS、複数環境接続、障害切り分けまでを組み合わせ、 要件からクラウドネットワークの基本設計を作成します。
クラウドネットワークの現場では、 「VPCやVNetを作れる」だけでは十分ではありません。
どのサブネットへ何を配置し、どの通信を許可し、 オンプレミスとどう接続し、障害時にどこを確認するか まで説明できることが重要です。
この課題で確認するスキル
- 仮想ネットワークとサブネットを設計できる
- ルートテーブルから通信経路を判断できる
- ロードバランサーとNAT Gatewayを適切に配置できる
- VPNと専用線を比較して接続方式を選定できる
- 複数環境の接続方法を考えられる
- クラウドDNSの名前解決を設計できる
- 通信障害を経路ごとに切り分けられる
- 設計理由を顧客へ説明できる
ケーススタディ
あなたは、企業のクラウド移行プロジェクトを担当する ネットワーク設計担当者です。
顧客は現在、本社内のサーバールームで業務システムを運用しています。 サーバー更改を機に、一部のシステムをクラウドへ移行する計画です。
あなたは顧客要件を整理し、 オンプレミスとクラウドを安全かつ安定して接続できる ネットワーク構成を提案する必要があります。
今回設計するネットワークの全体イメージ
LB
Web / App
DB
顧客要件
顧客から以下の要望を受けています。 すべてを読んだうえで、後続の課題に取り組んでください。
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| オンプレミス | 本社LANは 10.10.0.0/16 を使用している。 |
| クラウド |
クラウド側には新しく 10.20.0.0/16 を割り当てる。
|
| Webシステム | インターネットからHTTPSで利用する。 Webサーバーへ直接インターネットから接続させたくない。 |
| データベース | DBはインターネットから直接アクセスできない構成にする。 |
| 外向き通信 | Private Subnet上のサーバーからOSアップデートなどのため、 インターネットへの通信は必要。 |
| 本社接続 | 本社の利用者からクラウド内の業務サーバーへ接続する。 |
| 可用性 | 重要システムのため、単一障害点をできるだけ減らしたい。 |
| 将来拡張 | 将来的には別クラウドまたは別アカウントへシステムを追加する予定。 |
| DNS |
社内PCからはクラウド上の業務システムを
app.example.local で利用したい。
|
| 運用 | 障害発生時に、オンプレミス・クラウド・アプリケーションの どこに原因があるか切り分けられる構成にしたい。 |
ポイント: クラウドサービス名を暗記して答えるのではなく、 「なぜその構成が必要なのか」を説明してください。
1仮想ネットワークとサブネットを設計する
クラウド側のアドレス空間
10.20.0.0/16
を、役割別のサブネットに分割してください。
最低限、次の3種類を作成します。
- Public Subnet
- Application Subnet
- Database Subnet
| サブネット | ネットワーク | 配置する機器 | インターネット直接接続 |
|---|---|---|---|
| Public | 自分で設計 | 自分で記入 | 可 / 不可 |
| Application | 自分で設計 | 自分で記入 | 可 / 不可 |
| Database | 自分で設計 | 自分で記入 | 可 / 不可 |
2ルートテーブルを設計する
次の3種類の通信について、 どの方向へルーティングする必要があるか整理してください。
- インターネット利用者 → Webシステム
- Application Subnet → インターネット
- 本社LAN → Application Subnet
| 送信元 | 宛先 | 次に転送する対象 | 設計理由 |
|---|---|---|---|
| Public Subnet | 0.0.0.0/0 |
記入 | 記入 |
| Application Subnet | 0.0.0.0/0 |
記入 | 記入 |
| Cloud | 10.10.0.0/16 |
記入 | 記入 |
注意: ルートテーブルに経路が存在していても、 セキュリティ制御や戻り経路に問題があれば通信できません。
3インターネット接続方式を設計する
Application Subnetのサーバーは、 インターネットから直接接続させたくありません。 一方で、OSアップデートのため外向き通信は必要です。
この要件を満たす構成を考え、 NAT Gatewayをどこへ配置するか説明してください。
Application Subnetのデフォルトルート:
この構成にする理由:
4ロードバランサーを配置する
Webシステムは複数台のサーバーで構成し、 インターネットからHTTPSで利用できるようにします。
次の構成を完成させてください。
Webアクセス経路
以下について説明してください。
- ロードバランサーを使用する理由
- WebサーバーをPrivate Subnetへ置く理由
- ヘルスチェックが必要な理由
- 1台のWebサーバーが停止した場合の通信
5オンプレミスとクラウドの接続方式を選ぶ
本社とクラウドを接続する方式として、 次の2案を比較してください。
- インターネットVPN
- クラウドへの専用線接続
| 比較項目 | VPN | 専用線 |
|---|---|---|
| 導入速度 | 記入 | 記入 |
| コスト | 記入 | 記入 |
| 安定性 | 記入 | 記入 |
| 帯域 | 記入 | 記入 |
| 冗長化 | 記入 | 記入 |
| 向いている用途 | 記入 | 記入 |
最後に、今回の顧客へどちらを提案するか決めてください。
採用理由:
残るリスク:
正解は1つではありません。 通信量、予算、可用性、導入期間などの前提を置き、 選定理由を説明できることが重要です。
6複数クラウド・複数アカウントへの拡張を考える
1年後、次の環境が追加されることになりました。
- 本番クラウド環境
- 開発クラウド環境
- 別アカウントの共有サービス環境
- 将来的な別クラウド環境
すべてを個別の1対1接続で増やしていく場合、 どのような問題が発生するか考えてください。
また、接続を集約する ハブ型ネットワーク を採用する場合のメリットも説明してください。
7クラウドDNSを設計する
本社PCから、
app.example.local
という名前でクラウド上の業務システムへ接続できるようにします。
次の通信の流れを説明してください。
- 本社PCが
app.example.localを問い合わせる - 社内DNSがクラウド側の名前を解決する
- クラウド側DNSから結果を取得する
- 本社PCへIPアドレスを返す
- 本社PCからクラウドへ通信する
8クラウドネットワーク障害を切り分ける
システム稼働後、利用者から次の連絡がありました。
「本社PCからクラウド上の業務システムへ接続できません。 昨日までは利用できていました。」
確認したところ、次の情報が分かりました。
- 本社PCからデフォルトゲートウェイへのpingは成功
- 一般的なインターネットWebサイトは閲覧可能
app.example.localの名前解決は成功- 名前解決されたIPアドレスは正しい
- クラウド上のサーバーは起動している
- 他拠点から同じクラウドサーバーへは接続できる
問題
この時点で原因候補として優先して確認する項目を、 順番に5つ挙げてください。
2.
3.
4.
5.
追加情報
調査を進めたところ、
クラウド側ルートテーブルから
10.10.0.0/16
宛ての経路が削除されていることが分かりました。
なぜこれによって通信できなくなるのか、 往路と復路の観点から説明してください。
9顧客へ構成を説明する
技術に詳しくない顧客から、次の質問を受けました。
「クラウドならインターネットにつながっているのだから、 サーバーを全部Public Subnetへ置けば簡単なのではないですか?」
専門用語をできるだけ減らし、 60秒程度で説明する文章 を作成してください。
提出する成果物
この章末課題では、最終的に次の成果物を作成してください。
- クラウドネットワーク論理構成図
- IPアドレス・サブネット一覧
- ルートテーブル設計表
- インターネット接続設計
- ロードバランサー配置方針
- オンプレミス接続方式比較表
- 複数環境接続方針
- DNS名前解決フロー
- 障害切り分け手順
- 顧客向け説明文
評価基準
| 評価項目 | 確認ポイント | 配点 |
|---|---|---|
| サブネット設計 | 役割ごとに適切に分離されている | 15点 |
| ルーティング | 往路・復路を含めて経路を説明できる | 15点 |
| Internet/NAT | 公開・非公開を適切に使い分けている | 10点 |
| ロードバランサー | 可用性と役割を説明できる | 10点 |
| オンプレミス接続 | VPN・専用線を要件から比較できる | 15点 |
| 複数環境 | 将来拡張を考慮した接続方式になっている | 10点 |
| DNS | 名前解決と通信経路を区別できる | 10点 |
| 障害対応 | 根拠を持って確認順序を組み立てられる | 10点 |
| 顧客説明 | 専門用語を翻訳して説明できる | 5点 |
修了目安:80点以上
特に、構成そのものより 「なぜその設計にしたのか」を説明できるかを重視してください。
提出前チェックリスト
- クラウド側のIPアドレスがオンプレミスと重複していない
- PublicとPrivateの役割を分離できている
- Web/Appサーバーを不用意にインターネットへ公開していない
- Private Subnetから必要な外向き通信が可能になっている
- オンプレミスとクラウドの往復経路を説明できる
- VPNと専用線の違いを説明できる
- 単一障害点を洗い出している
- 将来の複数環境への拡張を考慮している
- DNS障害とネットワーク障害を区別して調査できる
- 顧客へ設計理由を分かりやすく説明できる
解答例と考え方
ここから先は解答例です。 先に自分で構成を考えてから確認してください。
課題1:サブネット設計例を見る
| 用途 | ネットワーク例 | 配置 |
|---|---|---|
| Public | 10.20.10.0/24 | 公開ロードバランサー、NAT Gatewayなど |
| Application | 10.20.20.0/24 | Web/Appサーバー |
| Database | 10.20.30.0/24 | DBサーバー |
役割ごとに分離することで、 インターネット公開範囲や通信制御を整理しやすくなります。
課題2・3:ルーティングとNATの考え方を見る
Public Subnetからインターネットへ向かう通信は、 インターネット接続用ゲートウェイへ転送します。
PrivateなApplication Subnetでは、 デフォルトルートをNAT Gatewayへ向けます。
これにより、 Applicationサーバーからインターネットへ接続できますが、 インターネット側からApplicationサーバーへ直接新規接続する構成にはしません。
本社LANの 10.10.0.0/16 宛て通信は、
VPNまたは専用線側へルーティングします。
課題4:ロードバランサーの考え方を見る
インターネットからのHTTPS通信はロードバランサーで受け、 Private Subnet上の複数Web/Appサーバーへ振り分けます。
1台が停止した場合はヘルスチェックで異常を検知し、 正常なサーバーへ通信を振り分けることで可用性を高めます。
課題5:VPNと専用線の比較例を見る
VPNは比較的短期間かつ低コストで導入しやすい一方、 インターネットを経由するため通信品質が外部環境の影響を受けます。
専用線はコストや導入期間が増えるものの、 大容量通信や安定した通信を求める環境に適しています。
重要システムであれば、 「専用線を主系、VPNをバックアップ」とする構成も候補になります。
課題6:複数環境接続の考え方を見る
環境同士をすべて1対1で接続すると、 環境数の増加に伴って接続数、ルート管理、設定変更箇所が増えます。
中央の接続ハブへ通信を集約することで、 新しいネットワークを追加するときの接続関係を整理しやすくなります。
ただし、中央ハブへの依存度や障害影響範囲も考慮する必要があります。
課題7:DNS設計例を見る
本社PCからの問い合わせを社内DNSが受け、 クラウド側で管理する名前についてはクラウド側DNSへ転送します。
クラウドDNSが
app.example.local
に対応するアドレスを返し、
その結果を本社PCへ返します。
DNSで名前解決できた後は、 VPNまたは専用線のルーティングを利用して実際の通信を行います。
課題8:障害切り分け例を見る
確認候補の例は次のとおりです。
- 本社からクラウドへのVPN・専用線接続状態
- 本社側のクラウド宛てルート
- クラウド側の本社宛てルート
- クラウド側セキュリティ制御
- FW・ACL・セッション情報
今回はクラウド側の
10.10.0.0/16
宛て経路が削除されています。
本社からクラウドへパケットが到達できても、 クラウドから本社へ戻すための経路がないため、 通信の往復が成立しません。
ネットワーク障害では、 往路だけでなく必ず復路も確認する ことが重要です。
課題9:顧客への説明例を見る
クラウド上にあるサーバーをすべてインターネットへ直接公開すると、 本来外部からアクセスさせる必要のないサーバーまで攻撃を受ける入口が増えてしまいます。
そのため、外部から接続を受ける部分だけを公開し、 Webサーバーやデータベースなどは内部側へ配置します。 必要な通信だけを通すことで、万一どこかに問題が発生した場合も影響範囲を小さくできます。
この課題で最も重要なこと
「クラウドサービスを配置できる」ことと 「クラウドネットワークを設計できる」ことは同じではありません。
設計者には、通信経路、セキュリティ、可用性、運用、将来拡張を考え、 なぜその構成を選んだのか説明する力が求められます。
特にクラウドでは設定画面から簡単にネットワークを作れるため、 「とりあえず作ったら通信できた」で終わってしまいがちです。
上級編では、構築方法ではなく 設計理由を言語化できること を目標にしてください。

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