この記事は、 「ネットワーク上級編|要件定義・設計・クラウド・自動化へ進む」 の第28回です。
第3章では、BGP、冗長化、QoS、MPLS、SD-WANなど、 企業ネットワークの高度な接続・経路制御技術を学びます。
SD-WANとは?仕組み・MPLSとの違い・設計ポイントをわかりやすく解説
SD-WANは、MPLS、インターネット回線、モバイル回線など複数のWAN回線を 統合的に扱い、アプリケーションや回線品質、業務要件に応じて 通信経路を制御するための技術です。 この記事では、SD-WANの基本構造からアンダーレイとオーバーレイ、 アプリケーション単位の経路制御、MPLSとの違い、 導入時の設計ポイントまで順番に整理します。
拠点間WANを設計するとき、 「MPLSかインターネットVPNか」という回線方式だけを考えても、 現在の企業ネットワークでは十分とは限りません。
Microsoft 365やWeb会議、SaaS、クラウド上の業務システムなど、 通信先とアプリケーションが多様化すると、 すべての通信を同じ回線・同じ経路で扱うこと自体が非効率 になる場合があります。
SD-WANでは、複数のWAN回線を共通のポリシーで制御し、 「どの通信を、どの回線へ、どの条件で流すか」を より柔軟に設計できるようにします。
この記事を読み終えるとできること
- SD-WANの役割を説明できる
- 従来WANとSD-WANの違いを整理できる
- アンダーレイとオーバーレイを区別できる
- SD-WAN Edgeやコントローラーの役割を説明できる
- アプリケーション単位の経路制御を説明できる
- MPLSとインターネット回線を組み合わせる理由を説明できる
- SD-WAN導入時の設計項目を洗い出せる
- SD-WANとSASEの違いを区別できる
SD-WANとは何か
SD-WANとは、複数のWAN回線の上に論理的なネットワークを構成し、 集中管理されたポリシーや回線品質、 アプリケーションの要件に基づいて通信経路を制御する仕組みです。
SD-WANは、 Software-Defined Wide Area Network の略です。
従来のWANでも、MPLSとインターネット回線を同時に接続したり、 ルーティングプロトコルを使って冗長化したりすることは可能です。
SD-WANの重要な違いは、 単に「回線が2本ある」ことではありません。
複数の回線をSD-WANという共通の仕組みで扱い、 通信の種類、回線品質、ポリシーなどを基準として、 どの経路を利用するかを柔軟に制御する 点にあります。
SD-WANは回線サービスそのものではありません。
MPLS、インターネット、光回線、LTE・5Gなどの WAN接続を土台として利用し、 その上で論理的なネットワークと制御機能を提供します。
なぜSD-WANが使われるのか
SD-WANが注目される背景には、 企業ネットワークで利用される通信先が変化したことがあります。
従来型の企業ネットワーク
以前は、企業の主要な業務システムが 本社やデータセンターに集中している構成が多くありました。
従来型WANのイメージ
この構成では、本社・データセンターとの通信が中心であれば 管理しやすいというメリットがあります。
クラウド・SaaS利用が増えると通信先が分散する
一方、現在は次のような通信が増えています。
- Microsoft 365などのSaaS
- クラウド上の業務システム
- Web会議
- クラウドストレージ
- インターネット上の各種Webサービス
こうした通信まで一度本社へ集約すると、 本社側のインターネット回線やファイアウォールへ 通信が集中する可能性があります。
クラウド利用が増えても、すべての通信を本社経由にする という構成が最適とは限りません。
遅延、帯域、コスト、セキュリティ、運用方法を踏まえて、 アプリケーションごとに適切な通信経路を検討する必要があります。
SD-WANで考えること
SD-WANでは、たとえば次のような方針を設計できます。
| 通信 | 経路例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 社内基幹システム | MPLS | 安定した拠点間通信を優先 |
| Web会議 | 品質の良い回線 | 遅延・ジッター・ロスを重視 |
| SaaS | 拠点のインターネット回線 | 不要な本社経由を減らす |
| 通常のWeb閲覧 | 低コスト回線 | 重要通信と回線を使い分ける |
従来WANとSD-WANの違い
SD-WANを理解するときは、 「従来WANでは何が難しかったのか」と比較すると分かりやすくなります。
| 比較項目 | 従来WAN | SD-WAN |
|---|---|---|
| 回線 | 特定方式を中心に設計することが多い | 複数のWAN回線を共通の仕組みで扱える |
| 設定管理 | 機器単位の設定が中心 | 集中管理・ポリシー配布を利用できる |
| 経路判断 | 宛先ネットワークやルーティングメトリック中心 | アプリケーションや品質条件も判断材料にできる |
| 品質劣化への対応 | リンクダウンを基準に切り替える構成が多い | 遅延・ロス・ジッターなどを見て経路変更できる製品がある |
| 拠点展開 | 拠点ごとの個別作業が増えやすい | テンプレートや自動展開を利用しやすい |
| 可視化 | 監視製品を組み合わせる | SD-WAN管理画面でWAN状態を統合表示できる場合がある |
SD-WANの価値は「安い回線を使えること」だけではありません。
回線、アプリケーション、性能、ポリシーを 一体として制御・運用しやすくすることが重要です。
SD-WANの基本構成
製品によって名称や実装は異なりますが、 SD-WANでは大きく次のような要素が登場します。
SD-WAN Edge
拠点やデータセンターなどへ配置され、 実際のユーザートラフィックを転送する装置・ソフトウェアです。
Controller
経路情報や制御情報などを扱い、 SD-WAN全体の通信制御に関与します。
Manager / Orchestrator
設定、ポリシー、監視、装置管理などを 集中的に行う管理機能です。
SD-WANの全体構成イメージ
管理を集中化する
従来のルーター中心の運用では、 100拠点あれば100台以上の機器へ 設定変更が必要になることがあります。
SD-WANでは、 管理画面やコントローラーで定義したポリシーを 複数の拠点へ展開できるため、 大規模環境での設定標準化や運用効率化につながります。
Controller、Manager、Orchestratorなどの 名称と役割分担は製品によって異なります。
製品選定では「名称を暗記する」のではなく、 管理・認証・経路制御・ポリシー配布・監視を どのコンポーネントが担当するか を確認します。
アンダーレイとオーバーレイ
SD-WANでは、 UnderlayとOverlay という2つの考え方が重要です。
アンダーレイ
アンダーレイは、 SD-WAN通信を実際に運ぶ土台となるネットワークです。
- MPLS・IP-VPN
- インターネット回線
- ブロードバンド回線
- 専用線
- LTE・5Gなどのモバイル回線
オーバーレイ
オーバーレイは、 アンダーレイの上にSD-WANが構築する 論理的なネットワークです。
SD-WAN Edge間でトンネルを形成し、 そのトンネルを通じて拠点間通信を行う構成が一般的です。 多くのSD-WAN製品では、 拠点間通信を暗号化する機能も備えています。
オーバーレイがあるから、アンダーレイの品質を考えなくてよい わけではありません。
インターネット回線自体で大きな遅延やロスが発生していれば、 SD-WANもその物理的・通信品質上の制約を受けます。
SD-WANは「悪い回線を良い回線に変える技術」ではなく、 複数の経路がある場合に、より適切な経路を選択・制御しやすくする技術 と考えると分かりやすくなります。
アプリケーションと回線品質に応じた経路選択
SD-WANを理解するうえで重要なのが、 Application-Aware Routing などと呼ばれる考え方です。
通常のIPルーティングでは、 宛先ネットワーク、メトリック、ルーティングプロトコルの情報などをもとに 経路を選択します。
SD-WAN製品では、それに加えて 次のような情報をポリシーへ利用できる場合があります。
Latency
通信の遅延時間
Packet Loss
パケット損失率
Jitter
遅延時間のばらつき
Application
通信しているアプリケーション
例:Web会議通信
Web会議では、 帯域だけでなく遅延、ジッター、パケットロスが 音声・映像品質へ影響します。
経路選択例
拠点に次の2回線があるとします。
- 回線A:MPLS
- 回線B:インターネット
通常時はWeb会議を回線Bへ流していたとしても、 回線Bのパケットロスや遅延が 設定した基準を超えた場合、 回線Aへ切り替えるといった制御が可能な製品があります。
アプリケーション単位の経路制御イメージ
| アプリケーション | 優先経路 | 条件 |
|---|---|---|
| 基幹システム | MPLS | 安定性優先 |
| Web会議 | Internet A | 遅延・ロスが基準内 |
| SaaS | Internet A/B | 直接インターネットへ接続 |
| バックアップ | Internet B | 低優先度回線を利用 |
「リンクダウン」と「品質劣化」は違う
WAN障害は、回線が完全に切断されるとは限りません。
回線自体はUPしていても、 パケットロスが増加したり、 遅延が大きくなったりする 品質劣化が発生することがあります。
このような状態は Brownout と表現されることもあります。
SD-WANでは、 回線の生死だけでなく性能状態を監視し、 ポリシー条件に応じて経路を変更できることが 大きな特徴の一つです。
MPLSとSD-WANの関係
SD-WANについて、 「MPLSを廃止する技術」と説明されることがあります。
しかし、これは必ずしも正しくありません。
SD-WANとMPLSは必ずしも競合関係ではなく、 MPLSをSD-WANのアンダーレイ回線として利用することもできます。
構成1:MPLSを残してSD-WAN化
MPLS+InternetのハイブリッドSD-WAN
既存MPLSの信頼性を活かしながら、 インターネット回線も積極的に利用する構成です。
構成2:インターネット中心へ移行
業務要件やセキュリティ要件を満たせる場合、 MPLS回線を縮小し、 複数のインターネット回線を中心にする方法もあります。
ただし、 「インターネットの方が安い」という理由だけで MPLSを廃止するべきではありません。
| 確認項目 | 検討内容 |
|---|---|
| 可用性 | 回線障害時に代替経路を確保できるか |
| 品質 | 業務アプリが必要とする遅延・ロス条件を満たせるか |
| セキュリティ | 暗号化・認証・インターネット出口対策をどうするか |
| 運用 | 障害時に回線・SD-WAN・ISPのどこを切り分けるか |
| コスト | 回線費だけでなく製品・ライセンス・運用費も含める |
前の記事 「MPLS・閉域網の基本」 で学んだ特徴と合わせて比較すると理解しやすくなります。
SD-WANの主なメリット
複数回線を活用しやすい
MPLSだけでなく、複数のインターネット回線や モバイル回線を組み合わせて利用できます。
経路を柔軟に制御できる
アプリケーションや回線品質に応じて、 適切なWAN経路を選択できます。
設定を標準化しやすい
拠点ごとの個別設定を減らし、 テンプレートや集中ポリシーで管理しやすくなります。
WANを可視化しやすい
回線状態やアプリケーション通信などを、 統合画面で確認できる製品があります。
クラウド利用に対応しやすい
SaaSやクラウド向け通信を、 必要に応じて拠点から直接インターネットへ出す設計ができます。
拠点展開を効率化できる
製品によってはゼロタッチ展開などを利用し、 多拠点の初期導入作業を効率化できます。
SD-WANのメリットを説明するときは、 「ネットワークが新しくなる」ではなく、 回線利用率、業務通信品質、拠点展開速度、設定作業、運用負荷 がどう変わるのかを示すことが重要です。
SD-WANの注意点・デメリット
SD-WANは便利な技術ですが、 導入すればすべてのWAN課題が解決するわけではありません。
1.設計が不要になるわけではない
SD-WANを導入しても、 次の設計は必要です。
- IPアドレス設計
- ルーティング設計
- WAN回線設計
- 冗長化設計
- QoS設計
- インターネット出口設計
- セキュリティ設計
- 監視・ログ設計
2.回線品質そのものは保証しない
SD-WANが経路を切り替えられても、 すべての回線が同時に混雑していれば 良好な経路が存在しない場合があります。
3.集中管理基盤も重要になる
ManagerやControllerへ依存するため、 管理基盤の冗長化、認証、バックアップ、 障害時の動作を確認する必要があります。
4.運用担当者に新しい知識が必要
従来のルーティングだけでなく、 オーバーレイ、ポリシー、アプリケーション識別、 SLA、コントローラーなどの知識が必要になります。
5.製品依存が大きい
SD-WANは製品ごとに、 アーキテクチャ、ポリシー記述、対応回線、 セキュリティ機能、クラウド連携などが異なります。
「SD-WAN対応」という言葉だけで判断せず、 必要な要件を実際に満たせるか を確認します。
6.障害切り分け範囲が増える
通信障害時には、 次のどこに問題があるかを切り分ける必要があります。
- LAN側
- SD-WAN Edge
- オーバーレイトンネル
- アンダーレイ回線
- ISP
- SD-WAN Controller
- ポリシー
- クラウド・SaaS側
SD-WANによって設定作業を集中化できても、 ネットワークの原因切り分けが不要になるわけではありません。
SD-WAN設計で確認する項目
SD-WAN設計では、 いきなり製品を選ぶのではなく、 まず要件を整理します。
1.利用するWAN回線
- MPLSを残すか
- インターネット回線を何本利用するか
- 異なるISPに分散するか
- 物理経路も分離できているか
- LTE・5Gをバックアップに使うか
- 回線帯域はいくら必要か
2.アプリケーション分類
「通信を高速化したい」だけでは ポリシーを設計できません。
主要アプリケーションを整理します。
| 分類 | 例 | 重視する条件 |
|---|---|---|
| リアルタイム通信 | Web会議・音声 | 遅延・ジッター・ロス |
| 基幹業務 | ERP・受発注 | 可用性・安定性 |
| SaaS | Microsoft 365等 | インターネット経路・セキュリティ |
| 大容量通信 | バックアップ・ファイル転送 | 帯域・優先度 |
3.SLA・性能基準
重要アプリケーションについて、 どの程度の遅延・ロス・ジッターまで許容するかを整理します。
製品で設定可能な項目と測定方法を確認し、 「どの条件を超えたら経路を変更するのか」 を設計します。
4.経路ポリシー
アプリケーションごとに、 優先回線と代替回線を定義します。
| 通信 | Primary | Backup | 判断条件 |
|---|---|---|---|
| 基幹システム | MPLS | Internet VPN | MPLS障害時 |
| Web会議 | Internet A | Internet B | 遅延・ロス・ジッター |
| SaaS | Internet A | Internet B | 回線状態 |
| バックアップ | Internet B | 必要に応じてA | 優先度・帯域 |
5.ローカルブレイクアウト
各拠点からインターネットへ直接接続する場合、 本社を経由しない通信が増えます。
そのため、 ネットワーク設計だけでなく セキュリティ設計も同時に検討する必要があります。
- ファイアウォール
- URLフィルタリング
- DNSセキュリティ
- IPS
- クラウド型セキュリティサービス
- ログ収集
この考え方は、 次の記事 「SASEの基本」 につながります。
6.管理基盤の可用性
- Controller停止時に既存通信は継続するか
- Manager停止時に通信へ影響するか
- クラウド型かオンプレミス型か
- 冗長化はどうするか
- 管理アクセスをどう制限するか
- 認証方式は何か
- 設定バックアップをどう取得するか
7.監視・ログ
最低限、次の状態を監視できるようにします。
- 各WAN回線のUP/DOWN
- オーバーレイトンネル状態
- 遅延
- ジッター
- パケットロス
- 帯域使用率
- アプリケーション別通信量
- 経路変更履歴
- Controller・Manager状態
SD-WAN設計では、 「通常時にどの経路を使うか」だけでなく、 「品質が悪化したときにどう動くか」 を決めることが重要です。
既存WANからSD-WANへ移行する基本的な考え方
大規模なWANでは、 一度に全拠点を切り替えるよりも、 段階的に移行する方法が現実的です。
- 現行WANを把握する 拠点、回線、帯域、ルーティング、利用アプリケーション、 障害履歴、運用方法を整理します。
- SD-WAN化する目的を明確にする 回線費削減、クラウド対応、品質改善、 拠点展開効率化など、目的を整理します。
- パイロット拠点を選ぶ 影響を管理できる拠点で先行導入し、 回線品質やポリシーを検証します。
- 既存回線と並行運用する 必要に応じてMPLSを残したままSD-WANを導入し、 通信を段階的に移します。
- アプリケーション別ポリシーを確認する 通常時・回線障害時・品質劣化時の経路を試験します。
- 監視・運用を確認する 障害通知、ログ、問い合わせ先、 運用手順、エスカレーション方法を整備します。
- 拠点展開を拡大する パイロット結果を反映しながら、 グループ単位で展開します。
試験では障害だけでなく品質劣化も確認する
SD-WANの試験で 単純にケーブルを抜くだけでは不十分な場合があります。
要件に応じて、次の状態も確認します。
- 回線断
- 高遅延
- パケットロス
- ジッター増加
- 帯域逼迫
- Controller障害
- Edge再起動
- ISP障害
SD-WANでよくある勘違い
MPLSをSD-WANのアンダーレイとして残す構成もあります。 必要性は性能、可用性、コスト、運用要件から判断します。
SD-WANは回線品質そのものを改善する技術ではありません。 複数経路から条件の良い経路を選択することで、 品質劣化の影響を抑えられる場合があります。
LAN側ルーティング、データセンター接続、 クラウド接続、経路広告、冗長化などの設計は引き続き必要です。
SD-WANは主にWAN接続と経路制御を扱います。 SASEはネットワーク機能とクラウド型セキュリティ機能を 統合して提供する考え方です。
回線方式そのものよりも、 アプリケーション、回線品質、業務要件に応じた 通信制御と運用が重要です。
顧客・上司へSD-WANをどう説明するか
技術に詳しくない相手へ 「Software-Defined WANです」と説明しても、 導入効果は伝わりません。
回線と業務の関係へ置き換えて説明します。
説明例:
「現在は、各拠点からの通信を主に1つのWAN経路へ流しています。 SD-WANを導入すると、閉域回線とインターネット回線など 複数の回線をまとめて管理し、 Web会議、社内システム、クラウドサービスといった 通信の種類に応じて使用する経路を変えられます。 また、ある回線の遅延やパケットロスが大きくなった場合に、 条件の良い別回線へ切り替える設計も可能です。」
技術をビジネス効果へ変換する
| 技術的な説明 | 業務的な説明 |
|---|---|
| 複数Underlayを利用する | 複数回線を有効活用し、単一回線への依存を減らす |
| Application-Aware Routing | 重要な業務通信を状態の良い回線へ流す |
| Centralized Policy | 多拠点の設定ルールを統一し、変更作業を効率化する |
| Local Internet Breakout | SaaS通信の不要な本社経由を減らす |
| Telemetry / Visibility | どの回線・アプリケーションに問題があるか把握しやすくする |
上級工程では、 「SD-WANという新技術を導入したい」ではなく、 現在の業務課題をSD-WANのどの機能で解決するのか を説明できることが重要です。
SD-WANで使われる英語表現
よく使われる単語
| 英語 | 意味 |
|---|---|
| SD-WAN | Software-Defined Wide Area Network |
| Underlay Network | 土台となる物理・WANネットワーク |
| Overlay Network | アンダーレイ上に構築する論理ネットワーク |
| WAN Edge | 拠点などでトラフィックを転送するSD-WAN装置 |
| Controller | 制御機能を担当するコンポーネント |
| Orchestrator | 構成・接続などを統合的に調整する機能 |
| Application-Aware Routing | アプリケーション特性を考慮した経路制御 |
| Path Selection | 経路選択 |
| Packet Loss | パケット損失 |
| Latency | 遅延 |
| Jitter | 遅延のばらつき |
| Local Internet Breakout | 拠点から直接インターネットへ接続する構成 |
設計資料で使える表現
Business-critical traffic should prefer the MPLS transport.
業務上重要な通信はMPLS回線を優先するものとします。
SaaS traffic should use local Internet breakout where appropriate.
SaaS通信は、適切な場合にはローカルインターネットブレイクアウトを利用します。
Traffic should fail over to the backup path when the SLA threshold is exceeded.
SLAしきい値を超えた場合、通信をバックアップ経路へ切り替えるものとします。
理解度チェック
SD-WANの用語だけでなく、 設計判断まで理解できているか確認しましょう。
問題1.SD-WANの説明として最も適切なものはどれですか。
- MPLSをインターネットへ変換するプロトコル
- 複数WAN回線をポリシーや品質条件に応じて統合的に制御する仕組み
- LAN内のVLANを自動作成する仕組み
- BGPの代わりに使用する単一のルーティングプロトコル
解答を見る
SD-WANは複数のWAN回線上に論理ネットワークを構築し、 ポリシー、アプリケーション、回線品質などをもとに トラフィックを制御する仕組みです。
問題2.SD-WANにおけるUnderlayの例をすべて選んでください。
- MPLS回線
- インターネット回線
- LTE・5G回線
- SD-WAN Edge間の論理トンネル
解答を見る
MPLS、インターネット、モバイル回線などが SD-WANの土台となるアンダーレイです。 Edge間の論理ネットワークはオーバーレイ側です。
問題3.Web会議通信の経路選択で特に確認したい指標はどれですか。
- 遅延・ジッター・パケットロス
- ルーターの筐体色
- LANケーブルの長さだけ
- サーバーのディスク容量だけ
解答を見る
リアルタイム通信では、 遅延、ジッター、パケットロスが 音声・映像品質へ影響するため重要です。
問題4.「SD-WANを導入するため、現在のMPLSは必ず廃止する」 という設計方針は適切ですか。
解答を見る
MPLSをSD-WANのアンダーレイとして利用する構成も可能です。 廃止するかどうかは、 可用性、性能、セキュリティ、コスト、運用要件から判断します。
問題5.SD-WAN導入後も必要となる設計を3つ以上挙げてください。
解答を見る
例:
- WAN回線設計
- IPアドレス設計
- ルーティング設計
- 冗長化設計
- QoS設計
- セキュリティ設計
- 監視設計
- ログ設計
実践演習:20拠点のWANをSD-WAN化する
次の顧客要件を読み、 SD-WANの構成方針を考えてください。
顧客環境
- 本社1拠点+支店20拠点
- 現在は全拠点をMPLSで接続
- 各拠点にインターネット回線も存在
- 基幹システムは本社データセンターに存在
- Microsoft 365とWeb会議の利用が増えている
- 支店からのインターネット通信は現在すべて本社経由
- Web会議の品質低下が課題
- MPLS回線費も削減したい
- 回線障害時も主要業務を継続したい
課題1.SD-WAN化する目的を整理する
この顧客がSD-WANを導入する目的を 3つ以上挙げてください。
2.__________________
3.__________________
解答例を見る
- MPLSとインターネット回線を有効活用する
- Web会議の通信品質を改善する
- SaaS通信の本社経由を減らす
- 回線障害時に別経路へ切り替える
- MPLS帯域・契約の見直しによりコストを最適化する
- 20拠点のWAN設定・監視を統合する
課題2.アプリケーション別の経路ポリシーを作る
次の通信について、 Primary経路とBackup経路を考えてください。
Web会議: Primary ______ / Backup ______
Microsoft 365: Primary ______ / Backup ______
解答例を見る
| 通信 | Primary | Backup |
|---|---|---|
| 基幹システム | MPLS | Internet Overlay |
| Web会議 | 品質の良いInternet回線 | MPLSまたは別Internet回線 |
| Microsoft 365 | 拠点Internet | 別InternetまたはMPLS経由 |
これは一例です。 実際には回線品質、セキュリティポリシー、 帯域、料金、SaaS接続要件などを確認して決定します。
課題3.Web会議で監視する項目を考える
Web会議の経路切り替え判断に利用したい ネットワーク指標を挙げてください。
解答例を見る
- Latency
- Jitter
- Packet Loss
- 回線UP/DOWN
- 必要に応じて帯域使用率
単に「回線がUPしているか」だけでなく、 実際の通信品質を確認することがポイントです。
課題4.追加で顧客へ確認する質問を考える
SD-WAN設計を進めるために、 追加で確認すべき質問を5つ以上考えてください。
2.__________________
3.__________________
4.__________________
5.__________________
解答例を見る
- MPLSを今後も残す必要がありますか
- 各拠点のインターネット回線帯域はいくらですか
- 各拠点で異なるISPを利用できますか
- 最重要の業務アプリケーションは何ですか
- 許容できる停止時間は何分ですか
- Web会議の品質基準はありますか
- 拠点から直接インターネットへ出すことは許可されていますか
- 各拠点に必要なセキュリティ機能は何ですか
- 現在のWAN監視は誰が担当していますか
- 障害時の保守・問い合わせ窓口を一本化する必要がありますか
自分の言葉で説明する課題
顧客から 「SD-WANって、MPLSをインターネットに置き換えるだけですか?」 と質問されました。
1分程度で説明してください。
説明例を見る
SD-WANは、MPLSを単純にインターネットへ置き換える技術ではありません。 MPLS、インターネット、モバイル回線など複数のWAN回線をまとめて扱い、 アプリケーションの種類や遅延・パケットロスなどの回線状態に応じて、 使用する経路を制御する仕組みです。
MPLSを残したままSD-WANへ組み込むこともできます。 そのため、重要な業務通信はMPLS、 SaaSはインターネットというように、 要件に応じて回線を使い分けることができます。
まとめ
- SD-WANは、複数のWAN回線を統合的に扱い、 ポリシーや通信品質に基づいて経路を制御する仕組み
- MPLS、インターネット、LTE・5Gなどは SD-WANのアンダーレイとして利用できる
- アンダーレイ上にSD-WANの論理的なオーバーレイを構築する
- SD-WAN Edgeが実際のユーザートラフィックを転送する
- 管理・制御機能を集中化し、 多拠点へ共通ポリシーを展開しやすい
- 製品によっては遅延、ジッター、パケットロスなどを利用し、 アプリケーションごとに経路を変更できる
- SD-WANを導入してもMPLSを必ず廃止する必要はない
- 回線品質そのものをSD-WANが改善するわけではない
- SD-WAN導入後もWAN、ルーティング、冗長化、 QoS、セキュリティ、監視の設計は必要
- 設計では通常時だけでなく、 回線断・遅延・ロスなどの異常時動作まで定義する
SD-WANで重要なのは「どの製品を使うか」より先に、 「どの業務通信を、どの条件で、どの回線へ流したいのか」を 明確にすることです。
上級編では、要件定義・基本設計から、 BGP、SD-WAN、クラウド、セキュリティ、自動化、 設計・提案までを順番に学びます。

コメント