ステートフルファイアウォールとは?セッション管理・戻り通信・ACLとの違いを図解

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ネットワーク中級編 25/全50記事

この記事は、 「ネットワーク中級編|構築・検証・障害切り分けを身につける」 の第25回です。

前回学んだACLの通信制御を発展させ、ファイアウォールが通信の状態を記録し、 戻り通信をどのように判定しているのかを理解します。

ステートフルファイアウォールとは?セッション管理・戻り通信・ACLとの違いを図解

ステートフルファイアウォールは、パケットを1つずつ独立して判定するだけでなく、 通信の開始から終了までをセッションとして管理します。 この記事では、セッションテーブル、5タプル、TCP・UDP・ICMPの扱い、 戻り通信が許可される理由、通信できないときの確認順序まで解説します。

対象レベル Level 2・中級
想定読了時間 約30分
身につく成果 セッションを基に通信可否を判断できる
前提知識 TCP・UDP・NAT・ACL
演習環境 ブラウザのみ

社内PCからインターネット上のWebサーバーへHTTPS通信を許可したとします。 PCからサーバーへ向かう通信には許可ポリシーが必要ですが、 サーバーからPCへ戻る応答のために、逆方向の許可ルールも必ず作るのでしょうか。

一般的なステートフルファイアウォールでは、最初の通信を許可した時点でセッションを作成し、 そのセッションに対応する戻り通信を自動的に識別します。 この仕組みを理解すると、ファイアウォールポリシーの設計と障害切り分けが大きく分かりやすくなります。

この記事を読み終えるとできること

  • ステートフルファイアウォールの役割を説明できる
  • ACLとステートフル検査の違いを説明できる
  • 5タプルとセッションテーブルを読み取れる
  • 戻り通信が許可される条件を判断できる
  • TCP・UDP・ICMPの状態管理の違いを理解できる
  • セッションが作られない・消える原因を切り分けられる
  • 非対称ルーティングが問題になる理由を説明できる
  • 調査結果を根拠とともに報告できる

ステートフルファイアウォールとは何か

最初に覚える定義

ステートフルファイアウォールとは、通信の送信元・宛先・ポート番号・プロトコル・状態を記録し、 その通信が既存セッションに属するかを判断してパケットを制御するファイアウォールです。

ステートフルの「ステート」は、通信の状態を意味します。 ファイアウォールは、最初に届いたパケットだけを見て終わるのではなく、 通信が開始されたか、確立中か、終了したかといった状態を追跡します。

ステートフルファイアウォールの基本構成

💻 社内PC 192.168.10.10
→
🛡️ ファイアウォール ポリシー確認+セッション作成
→
🗄️ Webサーバー 203.0.113.20:443
行き:新規通信としてポリシーを確認 / 帰り:既存セッションに一致する応答として判定

最初のパケットが許可ポリシーに一致すると、ファイアウォールはセッション情報を記録します。 その後のパケットは、毎回まったく新しい通信として扱うのではなく、 既存セッションに一致するかを確認して処理します。

重要:許可されるのは「逆方向のすべての通信」ではありません。

許可されたセッションに対応する戻り通信だけが対象です。 外部サーバーから社内PCへの無関係な新規接続は、別の新規通信としてポリシー判定を受けます。

ACL・ステートレスフィルタとの違い

ACLやステートレスなパケットフィルタは、基本的にパケットごとに条件を照合します。 一方、ステートフルファイアウォールは、通信の方向と状態をセッションとして関連付けます。

比較項目 ACL・ステートレス ステートフルファイアウォール
主な判定単位 個々のパケット 新規通信と既存セッション
通信状態の記録 原則として記録しない セッションテーブルへ記録する
戻り通信 逆方向の条件も明示的に必要になることがある 既存セッションに一致すれば自動的に識別できる
TCPフラグの扱い 設定次第で一部条件に利用する 接続状態の追跡に利用することがある
保持する情報量 比較的少ない セッション数に応じて増える
代表的な用途 ルーターやスイッチでの単純な通信制御 境界防御、サーバー公開、拠点・クラウド間の制御

ACLだけで戻り通信を制御する例

社内PCからWebサーバーへのHTTPSを許可する場合、行きの通信は宛先ポート443です。 しかし戻り通信では、送信元ポートが443、宛先ポートがPC側の一時ポートになります。

行きの通信

192.168.10.10:52000 → 203.0.113.20:443

PCが選んだ一時ポート52000から、HTTPSの443番ポートへ接続します。

戻り通信

203.0.113.20:443 → 192.168.10.10:52000

送信元と宛先が逆転し、サーバーからPCの一時ポートへ応答します。

ステートレスな制御だけで厳密に許可する場合、戻り通信のポート範囲やTCPフラグを考慮する必要があります。 ステートフルファイアウォールでは、行きの通信から作成したセッションを使って戻り通信を識別できます。

ACLとファイアウォールは完全な上位・下位関係ではありません。 ACLは高速で単純な制御に向き、ファイアウォールは状態管理、NAT、ログ、脅威検査などを組み合わせやすいという違いがあります。

セッションテーブルと5タプル

ファイアウォールが通信を追跡するための中心となる情報が、 セッションテーブルです。 セッションは、一般に次の5つの情報を組み合わせて識別します。

通信を識別する5タプル

1 送信元IPアドレス
2 宛先IPアドレス
3 送信元ポート
4 宛先ポート
5 プロトコル

例:192.168.10.10 / 203.0.113.20 / 52000 / 443 / TCP

実際のファイアウォールは、5タプルだけでなく、受信・送信インターフェース、 適用ポリシー、NAT変換情報、TCP状態、タイマー、送受信バイト数なども保持することがあります。

ID
送信元
宛先
状態
ポリシー
10482
192.168.10.10:52000
203.0.113.20:443
ESTABLISHED
Policy 10

セッションテーブルから分かること

  • 通信がファイアウォールまで到達し、セッションとして認識されたか
  • どのポリシーに一致したか
  • どの送信元・宛先・ポートで通信しているか
  • TCP接続が確立しているか、開始途中か、終了処理中か
  • NAT前後のアドレスやポートがどう変換されたか
  • 送受信パケット数やバイト数が増えているか
  • セッションがどの程度の時間保持されるか

表示項目や状態名は製品によって異なります。 実機では、セッション表示コマンド、ポリシーヒット数、トラフィックログ、パケットキャプチャーを組み合わせて確認します。

通信開始から戻り通信までの流れ

社内PCからWebサーバーへTCP/443で接続する例を使い、 ステートフルファイアウォールの処理を順番に確認します。

新規通信の判定からセッション確立まで

1.パケット受信
PCからSYNを受信
2.既存セッション検索
一致なし
3.経路・ポリシー判定
送信先と許可条件を確認
4.セッション作成
5タプルなどを記録
5.転送
Webサーバーへ送信
  1. PCがTCP SYNを送信する PCは送信元ポート52000、宛先ポート443として接続開始パケットを送ります。
  2. ファイアウォールが既存セッションを検索する 初回通信のため、一致するセッションはまだありません。新規通信として処理します。
  3. ルーティングとポリシーを確認する どのインターフェースへ転送するかを確認し、送信元ゾーン、宛先ゾーン、アドレス、サービスなどが許可ポリシーに一致するかを判定します。
  4. 必要に応じてNATを決定する インターネット向け通信では、送信元NATなどの変換情報をセッションへ関連付けます。
  5. セッションを作成してパケットを転送する 5タプル、方向、ポリシー、NAT、タイマーなどを記録し、SYNをWebサーバーへ転送します。
  6. WebサーバーからSYN/ACKが戻る 送信元と宛先は逆になりますが、ファイアウォールは逆方向の情報も含めて既存セッションと照合します。
  7. 戻り通信を既存セッションとして許可する セッションと整合する応答であれば、新規接続用の別ポリシーを探すのではなく、既存通信の戻りとして転送します。
  8. TCP接続状態を更新する 3ウェイハンドシェイクが完了すると、セッション状態を確立済みとして管理します。
SYN受信 新規通信
→
SYN/ACK確認 戻り通信
→
ESTABLISHED 接続確立
→
FIN / RST 終了処理

外部から無関係なパケットが届いた場合

たとえば、外部の別ホストが社内PCの52000番ポートへ突然パケットを送っても、 送信元IPアドレスや送信元ポートなどが既存セッションと一致しません。 そのため、正当な戻り通信とは判定されず、新規通信としてポリシー判定を受けます。

「行きが許可されれば、外部から同じ宛先ポートへの通信がすべて許可される」という意味ではありません。 セッションに記録された通信相手・ポート・プロトコル・状態との一致が重要です。

TCP・UDP・ICMPをどう管理するか

ステートフルファイアウォールは、プロトコルごとの特性に合わせて状態を管理します。 TCPのように明確な接続状態がある通信と、UDPのように接続確立手順がない通信では、管理方法が異なります。

1

TCP

SYN、ACK、FIN、RSTなどを参考に、接続開始・確立・終了の状態を追跡できます。 ただし、製品の実装や設定によって検査の厳密さは異なります。

2

UDP

3ウェイハンドシェイクがないため、最初の許可パケットを基に疑似的なセッションを作り、 一定時間内の逆方向通信を戻りとして扱います。

3

ICMP

Echo RequestとEcho Replyの識別子や種類などを対応付け、 要求に対応する応答かを判断します。エラー通知の扱いは製品により異なります。

TCPは「接続状態」を追跡できる

段階 代表パケット ファイアウォールの見方
接続開始 SYN 新規接続の開始としてセッション作成を検討
応答 SYN/ACK 開始済みセッションの逆方向応答かを確認
確立 ACK、データ 確立済み通信として状態・タイマーを更新
正常終了 FIN、ACK 終了状態へ遷移し、一定時間後に削除
強制終了 RST 接続終了としてセッションを解放することがある

UDPはタイマーの影響を受けやすい

UDPにはTCPのような接続開始・終了の手順がありません。 そのため、ファイアウォールは「この送信元からこの宛先へUDP通信が許可された」という情報を一定時間保持します。 通信間隔がタイムアウトより長いアプリケーションでは、途中でセッションが消え、次のパケットが新規通信として扱われることがあります。

音声・映像、DNS、監視、VPNなどではUDPが使われることがあります。 断続的な通信や長時間無通信になるアプリケーションでは、セッションタイムアウトとの相性を確認します。

NATとセッション管理の関係

NATとステートフル検査は別の機能ですが、実際のファイアウォールでは密接に連携します。 NATを行う通信では、変換前と変換後のアドレス・ポートをセッションに関連付けて管理します。

送信元NATを行うHTTPS通信

💻 社内PC 192.168.10.10:52000
→
🛡️ ファイアウォール 198.51.100.10:61000へ変換
→
🗄️ Webサーバー 203.0.113.20:443
変換前:192.168.10.10:52000 → 変換後:198.51.100.10:61000

Webサーバーからは、宛先198.51.100.10:61000へ応答が返ります。 ファイアウォールはセッションに記録したNAT情報を参照し、 宛先を192.168.10.10:52000へ戻して社内PCへ転送します。

NAT障害を切り分けるときに見る情報

  • セッションが作成されているか
  • 想定したNATルール・ポリシーに一致しているか
  • 変換後のIPアドレスとポートが正しいか
  • 戻りパケットが変換後アドレスへ到達しているか
  • 戻りパケットが同じファイアウォールを通っているか
  • 変換アドレスやポートの資源が不足していないか

NATの設定が正しく見えても、戻り経路が別の機器を通ると、 最初のファイアウォールが応答を受信できず、セッションを完成させられません。

セッションタイムアウトと終了

セッションテーブルの情報は永久に保持されません。 終了した通信や、一定時間パケットが流れない通信を削除しなければ、 セッション数が増え続けてファイアウォールの資源を消費するためです。

セッション作成 新規通信を許可
→
通信継続 パケットごとに更新
→
終了・無通信 FIN/RSTまたはタイムアウト
→
セッション削除 資源を解放

セッションが削除される主な条件

通信の終了を検知

  • TCP FINによる正常終了
  • TCP RSTによる切断
  • 管理者によるセッション削除
  • 装置再起動やHA切り替え時の状態消失

一定時間通信がない

  • TCPのアイドルタイムアウト
  • UDPのセッションタイムアウト
  • ICMPの短い保持時間
  • アプリケーション別タイマー

タイムアウトが短すぎる場合

  • 長時間アイドルになる業務アプリケーションが切断される
  • SSHやリモートデスクトップが無操作中に切れる
  • UDPベースの通信で応答が戻る前にセッションが消える
  • 再接続処理が増え、利用者が不安定さを感じる

タイムアウトが長すぎる場合

  • 不要なセッションが長く残り、同時セッション数を消費する
  • NAT用のポートや変換資源が解放されにくくなる
  • 大量通信時にセッションテーブルが圧迫される
  • 障害復旧後も古い状態が残り、想定外の挙動を続けることがある

タイムアウト値を変更するときは、単に長くするのではなく、 アプリケーションの通信間隔、利用者数、最大セッション数、NAT資源、HA同期の負荷を確認します。

ポリシー設計で確認する項目

ステートフルファイアウォールのポリシーは、単に送信元IPアドレスと宛先ポートだけを設定するものではありません。 どの通信を、どの方向で、どこまで許可するかを整理します。

1

通信の方向

送信元インターフェース・ゾーンと、宛先インターフェース・ゾーンを確認します。

2

アドレス

送信元・宛先を必要なネットワークやホストへ限定します。

3

サービス

TCP/UDPとポート番号を、アプリケーション要件に合わせて指定します。

4

処理

許可・拒否、NAT、ログ、セキュリティ検査などを決めます。

最小権限で設計する

「通信できるようにする」だけなら、広いアドレス範囲と全サービスを許可すれば簡単です。 しかし、障害時の影響範囲とセキュリティリスクが大きくなります。

項目 広すぎる例 絞り込んだ例
送信元 社内ネットワーク全体 業務端末用VLANのみ
宛先 任意のインターネット宛先 必要な業務サーバーまたはURL分類
サービス ALL TCP/443など必要なサービスのみ
ログ 記録なし 開始・終了・拒否など目的に応じて記録
有効期間 恒久的 作業期間や契約期間に合わせて管理

ポリシーの順序に注意する

多くのファイアウォールは、上から順番にポリシーを照合し、最初に一致したルールを適用します。 広い許可ルールが上にあると、下に作成した詳細な拒否・検査ルールへ到達しないことがあります。

ポリシーを追加した後は、設定内容だけでなく、実際にどのポリシーへヒットしたかをログやカウンターで確認します。

通信できないときの切り分け

ファイアウォールを通過する通信が失敗した場合、 「ポリシーが間違っている」とすぐに決めつけず、通信経路を順番に確認します。

1.到達
パケットがFWへ来ているか
2.判定
経路・ポリシー・NATは正しいか
3.セッション
作成・更新されているか
4.戻り
応答が同じ経路で戻るか
  1. 通信要件を明確にする 送信元IP、宛先IP、プロトコル、宛先ポート、通信開始方向、発生時刻を確認します。
  2. 端末からファイアウォールまでを確認する 端末のIP設定、デフォルトゲートウェイ、VLAN、ARP、ルーティングを確認します。
  3. 受信インターフェースでパケットを確認する パケットキャプチャーや受信カウンターで、対象通信がファイアウォールへ到達しているかを確認します。
  4. ルーティングを確認する 宛先への送信インターフェースとネクストホップが想定どおりかを確認します。ポリシー判定に経路情報が影響する製品もあります。
  5. 一致したポリシーを確認する 送信元・宛先ゾーン、アドレス、サービス、スケジュール、ユーザー認証、ポリシー順序を確認します。
  6. セッションテーブルを確認する セッションが存在するか、状態がどうなっているか、送受信カウンターが増えるかを確認します。
  7. NAT変換を確認する 変換前後のIPアドレス・ポートが正しいか、想定外のNATルールに一致していないかを確認します。
  8. 送信インターフェースから出ているかを確認する ファイアウォールが許可していても、ARP未解決、リンク障害、次ホップ障害などで転送できない場合があります。
  9. 戻りパケットを確認する 応答が戻っているか、別経路へ流れていないか、既存セッションに一致しているかを確認します。
  10. ログ・破棄理由・脅威検査を確認する ポリシー許可後にIPS、アンチウイルス、URLフィルター、SSL検査などで停止していないかを確認します。

セッションの状態から原因を考える

確認結果 考えられる状態 次に確認すること
セッションが作成されない FWへ未到達、ポリシー拒否、経路なし、初期検査で破棄 受信キャプチャー、ルート、ポリシーログ
セッションはあるが送信側だけ増える 応答なし、戻り経路誤り、宛先側で拒否 送信側キャプチャー、宛先サーバー、戻り経路
行き・帰りとも増えるが利用できない アプリケーション層、TLS、認証、内容検査の問題 アプリログ、SSL検査、パケット内容
一定時間後に切断される セッションタイムアウト、keepalive不足、HA切り替え タイマー、通信間隔、装置イベント
片方向だけ通る 非対称経路、逆方向ACL、NAT不整合 往復経路、両側装置のセッション

非対称ルーティングが問題になる理由

行きと戻りで別のファイアウォールを通る例

💻 クライアント 通信を開始
→
🛡️ FW-A 行きのセッションを保持
→
🗄️ サーバー 応答を返す
💻 クライアント 応答待ち
←
🛡️ FW-B セッションを知らない
←
🗄️ サーバー 別経路へ応答
FW-BがFW-Aのセッション状態を共有していなければ、戻り通信を不正な新規通信として破棄する可能性があります。

ステートフル検査では、往復パケットを同じセッションとして確認する必要があります。 行きと戻りで異なるファイアウォールを通る構成では、状態同期がない限り、戻り側装置に対応セッションが存在しません。

HA構成でも、すべてのセッション情報が常に完全同期されるとは限りません。 UDP、短時間セッション、オフロード通信、切り替えタイミングなど、製品仕様と構成を確認します。

調査結果の報告例

確認結果:
クライアント192.168.10.10からサーバー203.0.113.20のTCP/443へのパケットは、 FW-01のinternalインターフェースで受信されています。Policy 10に一致し、 セッションID 10482が作成され、送信元NAT後の198.51.100.10:61000としてwan側へ転送されています。

セッションの送信カウンターは増加していますが、受信カウンターは0のままです。 FW-01のwan側でも戻りパケットを確認できないため、ファイアウォールによる戻り通信の破棄ではなく、 サーバー側の応答有無または外部ネットワークの戻り経路を確認する必要があります。

ステートフルでも防げないこと

ステートフルファイアウォールは重要な防御機能ですが、 セッションを管理しているだけで、すべての脅威や誤通信を防げるわけではありません。

許可通信の内容までは安全と限らない

HTTPSやDNSなど、許可されたセッションの中で不正なデータが流れる可能性があります。 必要に応じてIPS、アンチウイルス、URLフィルター、アプリケーション制御などを組み合わせます。

暗号化通信は内容を確認しにくい

TLSで暗号化された通信は、復号検査を行わない限り内容まで確認できません。 復号には証明書配布、性能、プライバシー、例外設計が必要です。

正規端末からの不正利用

マルウェアに感染した端末が外部通信を開始すると、許可ポリシーに一致して正規セッションが作られる場合があります。

セッション資源を狙う攻撃

大量の新規接続により、セッションテーブルやNAT資源、CPUを消費させる攻撃があります。 DoS保護やレート制御、容量設計が必要です。

ステートフルファイアウォールは「通信の状態を理解して制御する仕組み」です。 「通信内容が安全であることを保証する仕組み」ではありません。

ステートフルファイアウォールに関するよくある勘違い

誤 行きの通信を許可すると、逆方向の通信はすべて許可される

許可されるのは、作成済みセッションに一致する戻り通信です。 外部から開始される無関係な新規通信は、別のポリシー判定を受けます。

誤 セッションが存在すればアプリケーションは正常である

セッションがあることは、ファイアウォールが通信を認識した証拠の一つです。 サーバー停止、TLSエラー、認証失敗、アプリケーション異常までは保証しません。

誤 UDPは接続がないためステートフル管理できない

TCPのような接続状態はありませんが、5タプルとタイマーを基に疑似セッションを作り、 一定時間内の逆方向通信を関連付けることができます。

誤 ファイアウォールで許可ログが出れば、戻り通信も必ず届いている

許可ログは行きのパケットを転送したことを示すだけの場合があります。 セッションの送受信カウンターや両側のパケットキャプチャーで戻りを確認します。

誤 ファイアウォールを2台並べれば非対称経路でも問題ない

行きと戻りが別装置を通る場合、セッション状態の共有が必要です。 状態同期がない装置は、戻りパケットを既存通信として認識できないことがあります。

正 ポリシー・経路・NAT・セッション・戻り通信を組み合わせて確認する

ファイアウォール障害の切り分けでは、設定画面だけでなく、 実際のパケットとセッション状態を確認することが重要です。

理解度チェック

次の6問に答えてください。解答を見る前に、 「新規通信か、既存セッションの通信か」を意識して考えましょう。

問題1.ステートフルファイアウォールの説明として最も適切なものはどれですか。

  1. MACアドレスだけを見てフレームを転送する装置
  2. パケットの送信元IPアドレスだけを記録する装置
  3. 通信の状態をセッションとして記録し、既存通信との関係を判定する装置
  4. すべての暗号化通信を自動的に復号する装置
解答を見る
正解:C

ステートフルファイアウォールは、5タプルや通信状態などをセッションとして管理し、 パケットが新規通信か既存通信かを判断します。

問題2.次のうち、5タプルに含まれないものはどれですか。

  1. 送信元IPアドレス
  2. 宛先IPアドレス
  3. 送信元ポート番号
  4. ユーザーの氏名
解答を見る
正解:D

5タプルは、送信元IP、宛先IP、送信元ポート、宛先ポート、プロトコルの組み合わせです。

問題3.社内PCからWebサーバーへのHTTPS通信が許可され、セッションが作成されました。WebサーバーからのSYN/ACKは通常どのように扱われますか。

  1. 外部からの通信なので必ず破棄する
  2. 既存セッションに一致する戻り通信として判定する
  3. MACアドレステーブルだけで判断する
  4. 常に新しい許可ポリシーを自動生成する
解答を見る
正解:B

送信元・宛先を逆方向から照合し、TCP状態も整合すれば、既存セッションの戻り通信として処理されます。

問題4.UDP通信でもセッションテーブルを作成できますか。

解答を見る
正解:作成できます。

TCPのような接続状態はありませんが、5タプルとタイマーを使って疑似的なセッションを管理します。

問題5.セッションの送信パケット数だけ増え、受信パケット数が0です。最も優先して確認したい内容を2つ挙げてください。

解答例を見る
  • 宛先サーバーが応答しているか
  • 戻り経路が同じファイアウォールへ向いているか
  • 外部側のルーター・ACL・ファイアウォールで破棄されていないか
  • NAT後アドレスへの戻り通信が正しいか

問題6.非対称ルーティングがステートフルファイアウォールで問題になりやすい理由を説明してください。

解答を見る

行きの通信を処理したファイアウォールと、戻り通信を処理するファイアウォールが異なると、 戻り側装置に対応セッションが存在しない場合があります。 その結果、正当な応答を新規通信や不正な状態として破棄する可能性があります。

実践演習:HTTPS通信が片方向で止まる原因を切り分けよう

次の構成で、社内PCから外部WebサーバーへHTTPS接続できない障害が発生しました。 セッション情報と確認結果から、原因候補と次の確認項目を整理してください。

演習用ネットワーク

💻 PC-A 192.168.10.10
→
🛡️ FW-01 送信元NATを実施
→
🌐 Internet 外部ネットワーク
→
🗄️ Web Server 203.0.113.20:443

確認できている情報

通信要件
送信元:192.168.10.10
宛先 :203.0.113.20
プロトコル:TCP
宛先ポート:443

FW-01 セッション表示(簡略)
Session ID : 10482
Policy ID  : 10
State      : SYN_SENT
Original   : 192.168.10.10:52000 -> 203.0.113.20:443
Translated : 198.51.100.10:61000 -> 203.0.113.20:443
Packets    : sent=6, received=0
Timeout    : 18 seconds

追加確認
・PC-AからFW-01の内部IPへping成功
・FW-01のinternal側でTCP SYNを確認
・FW-01のwan側でNAT後のTCP SYNを確認
・FW-01のwan側でSYN/ACKは確認できない

課題1.ファイアウォールの許可ポリシーは動作していますか

セッションID、Policy ID、送信パケット数を根拠に判断してください。
課題1の解答を見る

少なくとも新規通信の許可とwan側への転送までは動作していると判断できます。

Policy 10に一致してセッションが作成され、NAT後のSYNをwan側で確認できています。 したがって、PC-AからFW-01までの到達、ポリシー許可、送信元NAT、wan側への出力は確認済みです。

課題2.現在のTCP状態から何が分かりますか

SYN_SENT、sent=6、received=0の意味を考えてください。
課題2の解答を見る

PC-AからSYNは複数回送信されていますが、SYN/ACKまたはRSTが戻っていません。 TCPの3ウェイハンドシェイクは完了しておらず、接続は確立していません。

課題3.次に確認すべき項目を4つ挙げてください

FW-01より先の経路と、Webサーバーからの戻りを中心に考えてください。
課題3の解答例を見る
  • Webサーバー203.0.113.20が稼働し、TCP/443で待ち受けているか
  • 外部ネットワークで198.51.100.10からの通信が破棄されていないか
  • Webサーバーまたは外部ルーターに198.51.100.10への戻り経路があるか
  • 戻り経路がFW-01ではなく別のファイアウォールへ向いていないか
  • Webサーバー側のファイアウォールやACLでTCP/443が拒否されていないか
  • NAT後の198.51.100.10が正しくルーティング・広告されているか

課題4.調査結果を報告文にまとめてください

「確認済み」「未確認」「次に確認すること」を分けて記載してください。
報告例を見る

PC-A(192.168.10.10)からWebサーバー(203.0.113.20)のTCP/443への通信を確認しました。 FW-01ではPolicy 10に一致してセッションが作成され、送信元は198.51.100.10:61000へNATされています。 wan側でTCP SYNの送信を確認できているため、PC-AからFW-01までの通信、許可ポリシー、NAT、wan側への転送は正常と判断します。

一方、セッション状態はSYN_SENTのままで、送信6パケットに対して受信0パケットです。 FW-01のwan側でもSYN/ACKを確認できていないため、現時点ではFW-01による戻り通信の破棄ではなく、 Webサーバーの待ち受け状態、外部側の通信制御、198.51.100.10への戻り経路を確認する必要があります。

自分の言葉で説明する課題

最後に、次の質問へ30秒から1分程度で答えてください。

「社内PCからWebサイトへの通信は許可したのに、なぜ外部から社内PCへの新規接続は許可されないのですか?」 と質問されました。ステートフルファイアウォールの仕組みを使って説明してください。

ステートフルファイアウォールは、________________________________。
説明例を見る

ステートフルファイアウォールは、社内PCが開始した通信の送信元・宛先・ポート番号・プロトコルなどを セッションとして記録します。Webサーバーからの応答は、その記録と逆方向に一致するため戻り通信として許可されます。 一方、外部から突然開始された無関係な通信はセッションに一致しないため、新規通信として別のポリシー判定を受けます。

まとめ

  • ステートフルファイアウォールは、通信をセッションとして記録して状態を追跡する
  • セッションは、送信元IP、宛先IP、送信元ポート、宛先ポート、プロトコルなどで識別する
  • 最初の新規通信はポリシー判定を受け、許可されるとセッションが作成される
  • 戻り通信は、既存セッションに一致する場合に正当な応答として判定される
  • TCPはフラグと接続状態、UDPは主に5タプルとタイマーで管理する
  • NATを行う場合は、変換前後のアドレスとポートもセッションに関連付ける
  • 通信できないときは、到達、経路、ポリシー、NAT、セッション、戻り経路を順番に確認する
  • 行きと戻りが別装置を通る非対称ルーティングは、セッション不一致の原因になりやすい
  • ステートフル検査だけでは、許可通信内の脅威やアプリケーション異常までは防げない

ファイアウォールの切り分けでは、設定が正しいかだけでなく、 「どのセッションが作られ、行きと戻りのパケット数がどう変化しているか」を確認することが重要です。

次の記事:VPNの基本

今回は、ファイアウォールが通信の状態を追跡し、戻り通信を判定する仕組みを学びました。

次の記事では、インターネットなどの共有ネットワーク上に、 暗号化された仮想的な通信経路を作るVPNの目的と種類を解説します。

拠点間VPNとリモートアクセスVPNの違い、トンネル、暗号化、認証、カプセル化の全体像を理解します。

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中級編では、スイッチング、ルーティング、ネットワークサービス、セキュリティ、 パケット解析、障害切り分け、実務ドキュメントを順番に学びます。

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