IPsec VPNとは?IKE・SA・ESPによる暗号化通信の基本動作を図解

ネットワーク中級編 27/全50記事

この記事は、 「ネットワーク中級編|構築・検証・障害切り分けを身につける」 の第27回です。

前回の「VPNの基本」で学んだ仮想的な専用経路の考え方を土台として、 IPsec VPNが相手を認証し、鍵を共有し、実際の通信を暗号化するまでの流れを学びます。

IPsec VPNとは?IKE・SA・ESPによる暗号化通信の基本動作を図解

IPsec VPNでは、いきなり業務データを暗号化するわけではありません。 最初にIKEで相手を認証し、安全に鍵を作り、IPsec SAを確立したあと、 ESPを使って実際のIPパケットを保護します。 この記事では、拠点間VPNを例に、通信開始から暗号化・復号までを時系列で解説します。

対象レベル Level 2・中級
想定読了時間 約35分
身につく成果 IPsec VPN確立から暗号化まで説明できる
前提知識 VPN・NAT・ステートフルFWの基本
演習環境 ブラウザ/実機ログ任意

IPsec VPNの設定画面には、IKE、Phase 1、Phase 2、SA、ESP、暗号化方式、 認証方式、DHグループ、ローカルサブネット、リモートサブネットなど、多くの項目があります。

項目だけを暗記すると、障害時に「どこまで確立していて、どこから失敗しているのか」を判断できません。 重要なのは、制御通信でトンネルを準備する処理と、 業務通信を保護して運ぶ処理を分けて理解することです。

この記事を読み終えるとできること

  • IKEとESPの役割を区別できる
  • IKE SAとIPsec SAの違いを説明できる
  • IPsec VPN確立の流れを時系列で説明できる
  • トンネルモードのパケット構造を読み取れる
  • UDP 500・UDP 4500・ESPの違いを説明できる
  • SA未確立や片方向通信の確認順序を整理できる

IPsec VPNとは何か

最初に覚える定義

IPsec VPNとは、IP層の通信に暗号化・完全性確認・送信元認証・再送攻撃対策を適用し、 公衆網上に安全な通信経路を作る仕組みです。

IPsecは特定の1つの暗号化方式を指す言葉ではありません。 相手を認証する仕組み、暗号鍵を交換する仕組み、通信を保護するプロトコル、 通信条件を管理するSAなどを組み合わせた仕組みです。

機密性

内容を読まれにくくする

暗号化によって、インターネット上でパケットを取得されても、 業務データの内容をそのまま読めないようにします。

完全性

途中で改ざんされていないか確認する

受信したデータが送信時から変更されていないかを確認し、 不正なパケットを破棄します。

認証

接続相手が正しいか確認する

事前共有鍵や証明書などを使用して、 VPN接続先が想定した相手であることを確認します。

再送対策

同じパケットの不正な再利用を検知する

シーケンス番号を利用し、過去に取得したパケットを再送する攻撃を検知します。

IPsecは「インターネットを安全な回線へ変える」わけではありません。

インターネット上を流れる対象パケットを暗号技術で保護し、 第三者が内容を読み取ったり改ざんしたりしにくい状態にします。

まず全体の流れを理解する

本社LANと支社LANを、インターネット経由の拠点間IPsec VPNで接続する構成を考えます。

拠点間IPsec VPNの基本構成

🏢 本社LAN 192.168.10.0/24 VPN装置A:203.0.113.10
IPsecトンネル
IKEで準備し、ESPで保護
🏬 支社LAN 192.168.20.0/24 VPN装置B:198.51.100.20
内部通信:192.168.10.10 → 192.168.20.20
インターネット上:203.0.113.10 → 198.51.100.20 のESPまたはUDP 4500通信として転送

IPsec VPNは5段階で動作する

1️⃣ 対象通信を検知
VPNで保護すべき通信か判定
2️⃣ IKE開始
暗号方式と鍵交換条件を交渉
3️⃣ 相互認証
PSKや証明書で相手を確認
4️⃣ IPsec SA確立
業務通信を保護する条件を作成
5️⃣ ESP通信
暗号化・転送・復号を実行
  1. PC-Aが支社サーバーへ通信する 本社PCから支社サーバー宛てのパケットが、本社のVPN装置へ到着します。
  2. VPN装置が保護対象の通信か確認する 宛先ネットワーク、ルーティング、暗号化ポリシー、トラフィックセレクターなどから、 IPsecで保護すべき通信かを判断します。
  3. 必要であればIKEを開始する まだSAがない場合、VPN装置同士がIKEメッセージを交換し、暗号方式、鍵交換方式、認証方法を決めます。
  4. 業務通信を保護するIPsec SAを作る 対象ネットワーク、ESPの暗号方式、鍵、有効期限、SPIなどを管理するSAを確立します。
  5. 元のIPパケットをESPで保護する 元のパケットを暗号化し、VPN装置間で転送するための外側IPヘッダーを付けて送信します。
  6. 対向VPN装置が検証・復号する SPIで利用するSAを特定し、完全性とシーケンス番号を確認してから復号します。
  7. 元のパケットを支社LANへ転送する 復元されたパケットは、通常のIPパケットとして支社LAN内の宛先へ送られます。

IKEはトンネルを準備する制御通信、ESPは実際のデータを運ぶ通信です。

IKE SAだけ確立していても、IPsec SAがなければ業務データは暗号化されません。

IKE・SA・ESPの役割

IKE

交渉と認証

暗号アルゴリズム、DHグループ、認証方式などを交渉し、 相手を認証してSAを作ります。

SA

通信条件のまとまり

暗号方式、鍵、対象通信、有効期限、SPIなど、 保護に必要な情報を管理します。

ESP

データの保護

実際のIPパケットに対し、暗号化、完全性確認、送信元認証、 アンチリプレイ機能を提供します。

AH

認証と完全性

AHは暗号化を行わず、認証と完全性を提供します。 NATとの相性が悪く、一般的なVPNではESPが中心です。

要素 主な役割 確認したい状態
IKE SA IKEメッセージを安全に交換するための関係 対向装置との認証と制御チャネルが確立しているか
IPsec SA/Child SA 実データをESPで保護するための関係 対象通信、鍵、SPI、暗号方式が作成されているか
ESP 実データの暗号化・完全性確認・アンチリプレイ encaps/decaps、encrypt/decryptカウンターが増えるか

IKEv2でトンネルを準備する流れ

IKEv2では、一般的な初回接続時に IKE_SA_INITIKE_AUTHの2往復、合計4メッセージで、 IKE SAと最初のChild SAを確立します。

🔐 VPN装置A Initiator
IKE_SA_INIT要求
暗号候補・DH公開値・Nonce
IKE_SA_INIT応答
選択結果・DH公開値・Nonce
IKE_AUTH要求
ID・認証情報・通信条件
IKE_AUTH応答
認証結果・Child SA確立
🔐 VPN装置B Responder

1.IKE_SA_INIT

最初の交換では、双方がIKE SAを保護するための暗号条件を決め、 Diffie-Hellman鍵交換に必要な情報とNonceを交換します。

SA提案

使用可能な暗号条件を提示

暗号化、PRF、完全性、DHグループなどの候補を提示し、共通する組み合わせを選びます。

DH鍵交換

共通鍵の材料を作る

秘密そのものをネットワークへ送らずに、双方が同じ共有秘密を導出できるようにします。

Nonce

毎回異なる値を加える

接続ごとに生成する乱数を鍵導出へ利用し、過去の交換結果をそのまま再利用しにくくします。

この時点では、まだ相手の身元確認は完了していません。 ただし、以降のIKE_AUTHメッセージを暗号化・完全性保護するための鍵材料は用意されます。

2.IKE_AUTH

IKE_AUTHでは、双方が自分のIDを示し、事前共有鍵や証明書などを利用して相互認証します。 同時に、最初のChild SAで保護する通信範囲も交渉します。

  • 接続相手のID
  • 事前共有鍵または証明書による認証情報
  • ローカル側とリモート側のトラフィックセレクター
  • ESPで使用する暗号方式と完全性方式
  • Child SAの鍵と有効期限

実務上の見方: IKE_SA_INITで失敗する場合は暗号条件や到達性、IKE_AUTHで失敗する場合はPSK、証明書、ID、 トラフィックセレクターなどを疑います。

3.CREATE_CHILD_SA

最初のChild SAは通常IKE_AUTH内で作成されます。 その後、鍵の更新、新しい通信条件の追加、SAの再作成などでは、 CREATE_CHILD_SA交換が利用されます。

IKEv1とIKEv2の用語の違い

製品画面や現場の会話では、現在でも「Phase 1」「Phase 2」という言葉がよく使われます。 これは主にIKEv1の用語です。IKEv2では交換名称とSAの考え方が整理されています。

目的 IKEv1でよく使う表現 IKEv2でよく使う表現
IKE自身を守る関係を作る Phase 1、ISAKMP SA、Main Mode/Aggressive Mode IKE_SA_INIT+IKE_AUTH、IKE SA
実データを保護する関係を作る Phase 2、Quick Mode、IPsec SA Child SA、最初はIKE_AUTH内、その後はCREATE_CHILD_SA
通信相手の認証 Phase 1で実施 IKE_AUTHで実施

「Phase 1が上がったからVPNは正常」とは限りません。

IKE SAだけが確立していて、IPsec SA/Child SAが作成されていない状態では、 業務データを暗号化できません。

IPsec SAとSPIの考え方

SAは通信を保護するための状態情報

SA(Security Association)は、暗号化通信に必要な条件をまとめて管理する論理的な関係です。 代表的には次の情報を含みます。

  • ESPまたはAHのどちらを使うか
  • 暗号化アルゴリズムと鍵
  • 完全性アルゴリズムと鍵
  • トンネルモードまたはトランスポートモード
  • ローカル/リモートの対象ネットワーク
  • 有効期限
  • シーケンス番号とアンチリプレイウィンドウ
  • SPI

IPsec SAは片方向

IPsec SAは基本的に片方向です。 本社から支社へ送るSAと、支社から本社へ送るSAは別に管理されます。

双方向通信では2つのIPsec SAを使用する

VPN装置A 送信用SA:SPI 0xA001 受信用SA:SPI 0xB001
A → B:SA-A
B → A:SA-B
VPN装置B 受信用SA:SPI 0xA001 送信用SA:SPI 0xB001

SPIで利用するSAを特定する

SPI(Security Parameters Index)は、受信側が「このESPパケットをどのSAで処理するか」を判断するための値です。 受信側は、宛先IPアドレス、セキュリティプロトコル、SPIなどを使って対応するSAを特定します。

受信SPIが存在しない、または期限切れの場合、ESPパケットを正しく復号できません。

ESPでパケットを保護する仕組み

拠点間VPNでは、ESPのトンネルモードが広く使われます。 元のIPパケット全体を保護対象として包み、VPN装置間を転送するための外側IPヘッダーを追加します。

暗号化前のパケット

元のIPヘッダー
192.168.10.10 → 192.168.20.20
TCP/UDPヘッダー
業務データ

ESPトンネルモードで保護したパケット

外側IPヘッダー
203.0.113.10 → 198.51.100.20
ESPヘッダー
SPI・Seq
暗号化された元のIPヘッダー
暗号化されたTCP/UDP・データ
認証データ

外側IPヘッダーは、インターネット上のルーターがVPN装置AからVPN装置Bへパケットを転送するために必要です。 そのため、外側の送信元・宛先IPアドレスは通常暗号化されません。

ESP送信処理

  1. 対象SAを選択する 送信するパケットの送信元・宛先・プロトコルなどから、適用するIPsec SAを決定します。
  2. ESPヘッダーを付ける SPIとシーケンス番号を設定します。
  3. 保護対象を暗号化する トンネルモードでは、元のIPパケット全体を暗号化対象にします。
  4. 完全性情報を計算する 選択した方式に応じて、改ざんを検知するための認証データを作成します。
  5. 外側IPヘッダーを付けて送信する VPN装置同士のグローバルIPアドレスを利用してインターネットへ送信します。

ESP受信処理

  1. SPIから受信用SAを特定する ESPヘッダーのSPIを利用し、どの鍵と方式で処理するかを判断します。
  2. シーケンス番号を確認する 受信済みの番号ではないかを確認し、再送攻撃を検知します。
  3. 完全性を確認する 途中で改ざんされていないことを確認します。
  4. 暗号化部分を復号する 受信SAに保存された鍵を使い、元のIPパケットを復元します。
  5. 復元したパケットを内部へ転送する ルーティングやファイアウォールポリシーに従って、社内LANへ転送します。

トンネルモードとトランスポートモード

項目 トンネルモード トランスポートモード
主な用途 拠点間VPN、リモートアクセスVPN 主にホスト間のエンドツーエンド保護
保護範囲 元のIPパケット全体 主にIPヘッダーより後ろの上位層データ
外側IPヘッダー 新しく追加する 通常は追加しない
内部端末のIPアドレス ESP暗号化部分に含めて隠せる 元のIPヘッダーは外側に残る

拠点間VPNでは、VPN装置が内部端末の代わりにIPsec処理を行うため、 トンネルモードで元のIPパケット全体を包む構成が基本です。

NAT-Tとポート・プロトコル番号

IPsec VPNを通過させるために確認する通信は、TCPやUDPのポート番号だけではありません。 ESPはIPプロトコル番号50を使用し、AHはIPプロトコル番号51を使用します。

通信 番号 役割
IKE UDP 500 IKE SAの確立、認証、鍵交換
NAT-T UDP 4500 NAT環境でIKEとUDPカプセル化ESPを通過させる
ESP IPプロトコル番号50 業務データの暗号化・完全性確認・アンチリプレイ
AH IPプロトコル番号51 認証と完全性。暗号化は行わない

なぜNAT-Tが必要なのか

NATはIPアドレスやポート番号を書き換えます。 一方、ESPそのものにはTCPやUDPのポート番号がありません。 また、IPsecの完全性確認や通信識別に影響するため、NATを経由すると問題が発生する場合があります。

NAT-T(NAT Traversal)では、ESPパケットをUDPで包み、通常はUDP 4500として送信します。 NAT装置は一般的なUDP通信として変換・セッション管理できます。

NAT-T利用時のイメージ

外側IPヘッダー
UDP 4500
ESPヘッダー
暗号化された元のパケット

ファイアウォール確認: NAT-Tを使用する構成ではUDP 500とUDP 4500を確認します。 NAT-Tを使用せずESPを直接通す構成では、IPプロトコル50の許可も必要です。

両拠点で一致させる主な設定

IPsec VPNは、両側が同じ方式で通信できることが前提です。 製品ごとに画面名や設定コマンドは異なりますが、確認する考え方は共通しています。

分類 主な項目 不一致時の代表的な症状
対向情報 対向IPアドレス、IKE ID、インターフェース 相手へ到達しない、ID不一致、想定外の相手として拒否
IKE条件 IKEバージョン、暗号化、PRF/ハッシュ、DHグループ、有効期限 提案不一致、IKE_SA_INITで失敗
認証 PSK、証明書、CA、証明書名、ID IKE_AUTH/Phase 1認証失敗
IPsec条件 ESP暗号化、完全性、PFS、有効期限 IKE SAはあるがChild SA/Phase 2が確立しない
対象通信 ローカルサブネット、リモートサブネット、トラフィックセレクター 一部通信だけ暗号化されない、セレクター不一致
経路・ポリシー ルーティング、FWポリシー、NAT除外、戻り経路 SAは確立するが通信できない、片方向通信

新規設計で意識したい暗号方式

具体的な採用方式は組織のセキュリティ基準、製品対応、性能、接続相手との互換性で決めます。 一般に、AES-GCMのような認証付き暗号、またはAESとSHA-2を組み合わせた方式が候補になります。

DES、MD5、弱いDHグループなど、古い方式を新規構成へ安易に採用しないでください。 既存環境との互換性が必要な場合も、利用理由、期限、移行計画を明確にします。

障害切り分けの確認順序

IPsec VPN障害では、設定を最初から全部見直すのではなく、 「どの段階まで成功しているか」を順番に確認します。

1

対向へ到達できるか

  • WANインターフェースは正常か
  • 対向グローバルIPへ経路があるか
  • 上位FWでUDP 500/4500またはESPが許可されているか
2

IKE SAが確立しているか

  • IKEバージョンは一致しているか
  • 暗号条件とDHグループは共通しているか
  • PSK、証明書、IDは正しいか
3

IPsec SAが確立しているか

  • ESPの提案は一致しているか
  • ローカル/リモートのセレクターは逆向きに対応しているか
  • PFSや有効期限の条件は一致しているか
4

暗号化カウンターが増えるか

  • 送信側のencaps/encryptが増えるか
  • 受信側のdecaps/decryptが増えるか
  • 送信だけ増え、受信が増えない片方向状態ではないか

代表的な確認コマンド

次はCisco IOS/IOS XE系で見かける代表例です。 実際のコマンド、表示形式、利用可否は機種とソフトウェアバージョンによって異なります。

IKEv2 SAの確認

show crypto ikev2 sa

対向IP、状態、ロール、IKE SAが確立しているかを確認します。

IPsec SAとカウンターの確認

show crypto ipsec sa

ローカル/リモートセレクター、SPI、encaps/decaps、encrypt/decryptを確認します。

VPNセッション全体の確認

show crypto session detail

IKEとIPsecの状態、インターフェース、対向、セッション状態をまとめて確認します。

ルーティングの確認

show ip route <宛先IP>

保護対象の通信が、VPNを適用する経路・インターフェースへ向かうかを確認します。

出力例の読み方

IPv4 Crypto IKEv2 SA
Tunnel-id  Local                 Remote                Status
1          203.0.113.10/500      198.51.100.20/500     READY

Crypto map tag: VPN-MAP, local addr 203.0.113.10
  local  ident (addr/mask/prot/port): (192.168.10.0/255.255.255.0/0/0)
  remote ident (addr/mask/prot/port): (192.168.20.0/255.255.255.0/0/0)
  #pkts encaps: 1250, #pkts encrypt: 1250
  #pkts decaps: 1218, #pkts decrypt: 1218
READY
IKEv2 SAが確立していることを示す代表的な状態表示です。
local ident
自拠点側の保護対象ネットワークです。
remote ident
対向拠点側の保護対象ネットワークです。
encaps/encrypt
自装置がIPsecで包み、暗号化して送信したパケット数です。
decaps/decrypt
対向から受信し、IPsecを外して復号したパケット数です。

症状から切り分ける

症状 疑う場所 確認例
IKE SAが作成されない 到達性、UDP 500/4500、IKE提案、対向IP WAN経路、FWログ、IKEログ
認証で失敗する PSK、証明書、ID、時刻 双方のPSK、証明書期限、NTP、ID設定
IKE SAはあるがIPsec SAがない ESP提案、セレクター、PFS ローカル/リモートネットワークの対応
encapsだけ増える 対向受信、戻り経路、対向FW、セレクター 対向のdecaps、上位FW、戻りルート
SAはあるがカウンターが増えない ルーティング、対象通信、NAT、FWポリシー 実際の送信元/宛先、経路、NAT除外

片方向通信では、両側のカウンターを並べて確認します。 A側のencapsが増えているなら、B側のdecapsが増えるはずです。 対応するカウンターが増えない区間に問題があると考えます。

IPsec VPNに関するよくある勘違い

IKEが確立していれば業務通信も必ず通る

IKE SAが確立していても、IPsec SA、ルーティング、FWポリシー、NAT除外、戻り経路などに問題があれば通信できません。

ESPの50はポート番号である

ESPの50はIPプロトコル番号です。TCP 50やUDP 50ではありません。

IPsecトンネルが常に物理的な専用経路を作る

実際のパケットはインターネットなど既存のネットワークを通過します。 暗号化処理によって論理的に安全な経路として扱います。

暗号化方式だけ一致すれば接続できる

IKEバージョン、認証、DHグループ、ESP条件、トラフィックセレクターなど、複数の条件が対応する必要があります。

制御通信と実データ通信を分けて確認する

IKE SA、IPsec SA、ESPカウンター、内部ルーティングの順に確認すると、失敗段階を切り分けやすくなります。

理解度チェック

記事の内容を確認するため、次の5問に答えてください。 解答を見る前に、一度自分で考えてみましょう。

問題1.IKEとESPの役割の組み合わせとして正しいものはどれですか。

  1. IKEは業務データを転送し、ESPはDNS名前解決を行う
  2. IKEは認証・鍵交換・SA確立を行い、ESPは実データを保護する
  3. IKEとESPはどちらもルーティングプロトコルである
  4. IKEは暗号化を行わず、ESPは相手を認証しない
解答を見る
正解:B

IKEは安全な通信条件を準備し、ESPはその条件に従って実データを保護します。

問題2.IKEv2の初回接続で使用される代表的な2つの交換は何ですか。

解答を見る
正解:IKE_SA_INITとIKE_AUTH

IKE_SA_INITで暗号条件・DH・Nonceを交換し、IKE_AUTHで相互認証と最初のChild SA確立を行います。

問題3.ESPのIPプロトコル番号と、NAT-Tで使用するUDPポート番号を答えてください。

解答を見る
ESP:IPプロトコル番号50、NAT-T:UDP 4500

ESPの50はポート番号ではありません。

問題4.A側のencapsカウンターだけ増え、B側のdecapsカウンターが増えない場合、どの区間を疑いますか。

解答を見る
解答例:

A側からB側までのインターネット経路、上位FW、NAT、B側WAN受信、対向SA不一致などを疑います。A側では暗号化送信できている一方、B側で正常に受信・復号できていません。

問題5.拠点間VPNで一般的に利用されるモードはどれですか。

  1. トンネルモード
  2. トランスポートモードのみ
  3. ブリッジモード
  4. アクセスポートモード
解答を見る
正解:A

拠点間VPNでは、元のIPパケット全体を保護し、VPN装置間用の外側IPヘッダーを追加するトンネルモードが基本です。

実践演習:IPsec VPNの失敗段階を切り分けよう

次の拠点間VPNで、本社PCから支社サーバーへ通信できない状況を考えます。

演習構成

本社 LAN:10.10.10.0/24 VPN装置A:203.0.113.10
インターネット
IPsec VPN
支社 LAN:10.20.20.0/24 VPN装置B:198.51.100.20

確認結果

【VPN装置A】
IKEv2 SA:READY
Local selector :10.10.10.0/24
Remote selector:10.20.20.0/24
encaps:350
 decaps:0

【VPN装置B】
IKEv2 SA:READY
Local selector :10.20.20.0/24
Remote selector:10.10.10.0/24
encaps:0
 decaps:0

【上位ファイアウォール】
UDP 500:許可
UDP 4500:拒否

課題1.どこまで成功していますか

IKE SA、IPsec SA、暗号化送信、対向受信のうち、成功している範囲を書いてください。
課題1の解答を見る

IKEv2 SAは両側でREADYのため、IKEの認証と制御チャネルは確立しています。 A側のencapsが増えているため、A側では対象通信をIPsecで暗号化して送信しています。 一方、B側のdecapsが0のため、B側は暗号化パケットを正常受信・復号できていません。

課題2.最も疑わしい原因は何ですか

確認結果から、最も疑わしい原因を書いてください。
課題2の解答を見る

上位ファイアウォールでUDP 4500が拒否されていることが最も疑わしい原因です。 NAT-Tを利用している場合、ESPはUDP 4500でカプセル化されるため、 IKE開始後の暗号化データが通過できません。

課題3.修正後に確認する項目を挙げてください

例:B側のdecapsカウンターが増えること
課題3の解答例を見る
  • UDP 4500が双方向に許可されていること
  • A側のencapsとB側のdecapsが対応して増えること
  • B側のencapsとA側のdecapsも増えること
  • 本社PCから支社サーバーへ疎通できること
  • 戻り通信が同じトンネルを通ること
  • FWログに新たな拒否がないこと

自分の言葉で説明する課題

「IPsec VPNは、通信開始からどのように暗号化されるのですか」と質問されました。 IKE、SA、ESPの3語を使い、1分程度で説明してください。

IPsec VPNでは、まず________________________________。
説明例を見る

IPsec VPNでは、まずIKEを使ってVPN装置同士が暗号方式を交渉し、 事前共有鍵や証明書で相手を認証します。 次に、業務通信を保護するための暗号鍵や対象ネットワークをSAとして管理します。 SAが確立すると、ESPが元のIPパケットを暗号化し、完全性とシーケンス番号を確認できる形で対向装置へ送ります。 対向装置はSPIから利用するSAを特定し、検証・復号して内部ネットワークへ転送します。

まとめ

  • IPsecはIP層の通信へ暗号化、完全性、認証、アンチリプレイなどを提供する仕組み
  • IKEは暗号条件の交渉、相互認証、鍵交換、SA確立を担当する
  • IKEv2ではIKE_SA_INITとIKE_AUTHでIKE SAと最初のChild SAを確立する
  • IKE SAは制御通信を保護し、IPsec SA/Child SAは実データを保護する
  • ESPは実際のIPパケットを暗号化し、完全性とアンチリプレイを提供する
  • 拠点間VPNでは、元のIPパケット全体を保護するトンネルモードが基本
  • ESPはIPプロトコル番号50、IKEはUDP 500、NAT-TはUDP 4500を使用する
  • 障害時は、到達性→IKE SA→IPsec SA→暗号化カウンター→内部経路の順で確認する

IPsec VPNを理解する鍵は、「IKEで準備し、SAで条件を管理し、ESPで実データを保護する」と整理することです。

次の記事:無線LANの認証と暗号化

今回は、IPsec VPNがIKEで相手を認証し、SAを確立したあと、 ESPでIPパケットを保護する流れを学びました。

次の記事では、無線LANで第三者の接続や盗聴を防ぐために使われる、 WPA2・WPA3、PSK、802.1X、暗号化方式の違いを解説します。

参考資料

コマンド、状態表示、暗号アルゴリズム、初期値、NAT-Tの動作、対応するIKEバージョンは、 製品・OS・ライセンス・ソフトウェアバージョンによって異なります。 本番環境へ設定する前に、対象製品の公式ドキュメント、組織のセキュリティ基準、対向装置の設定を確認してください。

ネットワーク中級編 27/全50記事

中級編では、VLAN、STP、ルーティング、OSPF、ACL、VPN、 パケット解析、障害切り分けを順番に学びます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次