「CCNAを取得したのに、単価が上がらない」
「経験年数は増えているのに、任される仕事が変わらない」
「同じネットワークエンジニアなのに、なぜ人によって単価が大きく違うのか」
このような疑問を持つネットワークエンジニアは少なくありません。
単価は、保有資格や経験年数だけで決まるものではありません。
顧客が評価しているのは、単純な知識量ではなく、次のような価値です。
どこまで仕事を任せられるか
問題が起きたときに解決できるか
顧客や関係者と調整できるか
成果を再現し、他人に説明できるか
つまり、ネットワークエンジニアの単価は、技術を使ってどれだけ顧客の負担やリスクを減らせるかによって決まります。
本記事では、ネットワークエンジニアの単価を左右する5つの能力と、それぞれを高めるための具体的な行動を解説します。
最初に知っておきたい「単価」と「給与」の違い
単価について考える前に、次の3つは分けて考える必要があります。
- SES企業から顧客へ請求される単価
- エンジニア本人が受け取る給与・年収
- フリーランスが受け取る契約単価
SES企業で働いている場合、顧客への請求単価が上がったからといって、給与が同じ割合で上がるとは限りません。
会社の評価制度、利益率、待機リスク、営業費用、社会保険料などがあるためです。
そのため、単価を上げることと年収を上げることは、関連しているものの同じではありません。自分の市場価値を考えるときは、「顧客がいくら払うか」と「会社からいくら受け取るか」を分けて確認しましょう。
ネットワークエンジニアの単価は何で決まるのか
ネットワークエンジニアの単価は、単純化すると次の3要素で決まります。
単価 ≒ 任せられる範囲 × 問題解決の再現性 × 代替されにくさ
手順書に沿った作業だけを担当する場合、業務範囲が限定されるため、代わりの人を見つけやすくなります。
一方で、顧客へのヒアリングから設計、構築、試験、障害対応まで一貫して担当できる人は、簡単には代替できません。
さらに、クラウド、セキュリティ、自動化、英語などの隣接スキルを持っていると、対応できる案件が増えます。
ここからは、単価を決める5つの能力を具体的に見ていきましょう。
1.ネットワーク技術を理解し、説明できる能力
1つ目は、ネットワークの仕組みを正しく理解する能力です。
ただし、コマンドを暗記しているだけでは十分ではありません。
単価につながる技術力とは、次のような状態を指します。
- パケットがどの経路を通るか説明できる
- 通信できない原因をレイヤーごとに整理できる
- 設定変更による影響を予測できる
- 複数の構成案を比較できる
- なぜその設計が必要なのか説明できる
例えば、VLANの設定コマンドを入力できるだけでは、担当できる仕事は限定されます。
一方で、次の内容まで説明できれば評価は変わります。
- なぜVLANを分割するのか
- VLAN間通信をどこで制御するのか
- ブロードキャストドメインを分けるメリットは何か
- 障害時にどの範囲へ影響するのか
- セキュリティ上どのような効果があるのか
顧客が必要としているのは、設定を投入する人ではなく、要件に合った設定を判断できる人です。
単価が上がりにくい状態
- コマンドをコピーして投入している
- 正常時の動作しか説明できない
- 設定の目的を理解していない
- 機器が変わると対応できない
- 資格問題は解けるが、実際の構成を説明できない
単価が上がりやすい状態
- 通信の流れを図にして説明できる
- 障害箇所の仮説を立てられる
- 構成ごとのメリット・デメリットを比較できる
- 設定変更の影響範囲を予測できる
- 顧客の要件を技術構成に変換できる
技術力を高める方法
資格学習だけで終わらせず、1つの技術について次の5点を整理してみましょう。
- どのような問題を解決する技術か
- どのような仕組みで動作するか
- どのような構成で使われるか
- 障害時に何を確認するか
- 顧客にはどのように説明するか
例えばOSPFを学ぶ場合、コマンドだけでなく、隣接関係が確立する条件、経路選択の仕組み、障害時の確認項目まで説明できる状態を目指します。
2.要件を設計へ落とし込む能力
2つ目は、顧客の要望をネットワーク設計に変換する能力です。
ネットワーク案件では、顧客が最初から技術要件を明確に説明してくれるとは限りません。
顧客からは、次のような曖昧な要望が出てきます。
- 通信を止めたくない
- セキュリティを強くしたい
- 拠点を増やしたい
- クラウドを使いたい
- 運用を簡単にしたい
- 将来的に拡張できるようにしたい
設計担当者には、このような要望を具体的な設計条件へ変換する力が必要です。
例えば「通信を止めたくない」という要望に対しては、次の項目を確認します。
- 許容できる停止時間
- 冗長化が必要な区間
- 回線障害時の切り替え方式
- 機器障害時の復旧方法
- メンテナンス時の通信影響
- 予算とのバランス
- 障害検知と連絡方法
単に冗長構成を提案するのではなく、顧客の業務影響、予算、運用体制を踏まえて設計することが重要です。
設計工程で評価される成果物
- 要件定義書
- 基本設計書
- 詳細設計書
- ネットワーク構成図
- IPアドレス設計表
- VLAN一覧
- ルーティング設計
- 冗長化設計
- 監視設計
- 移行計画
- 試験計画
設計書を書いた経験がなくても、現在の現場構成を題材にして、自分用の設計資料を作ることはできます。
ただし、実案件の機密情報や顧客名、IPアドレス、認証情報などは使用せず、架空の構成へ置き換えましょう。
設計力を高める質問
ネットワーク構成を見るときは、次のように問いかけます。
- なぜこの機器が必要なのか
- なぜこの場所に設置されているのか
- なぜこの経路を通るのか
- どこが単一障害点になっているか
- 将来拡張するときに何が問題になるか
- 障害時にどの通信が止まるか
- 別の方式と比較して何が優れているか
設計力とは、設計書の書き方だけではありません。
選択肢を比較し、判断理由を説明できる能力です。
3.障害を切り分けて解決する能力
3つ目は、障害対応能力です。
ネットワークエンジニアの価値が最も分かりやすく表れる場面の一つが、通信障害の発生時です。
正常時の作業は手順化できますが、障害は必ずしも手順書どおりには発生しません。
そのため、顧客は次のようなエンジニアを高く評価します。
- 状況を整理できる
- 影響範囲を確認できる
- 原因の仮説を立てられる
- 優先順位を決められる
- 暫定対応と恒久対応を分けられる
- 関係者へ適切に報告できる
- 再発防止策を提案できる
障害対応能力は、単にshowコマンドを多く知っていることではありません。
重要なのは、情報が不足した状態でも、確認すべき項目を整理できることです。
障害切り分けの基本手順
1.事象を明確にする
「ネットワークにつながらない」だけでは、情報が不足しています。
次の内容を確認します。
- 誰が影響を受けているか
- どの端末が影響を受けているか
- どの通信が失敗しているか
- いつから発生しているか
- 常に発生するか、断続的か
- 直前に変更作業があったか
2.影響範囲を確認する
- 1台だけか
- 特定VLANだけか
- 特定拠点だけか
- 全拠点か
- 特定アプリケーションだけか
- インターネット通信全体か
影響範囲を確認することで、調査対象を絞り込めます。
3.レイヤーごとに確認する
- 物理層:ケーブル、リンク、電源
- データリンク層:VLAN、STP、MACアドレス
- ネットワーク層:IPアドレス、ルーティング、ARP
- トランスポート層:TCP、UDP、ポート番号
- アプリケーション層:DNS、HTTP、認証、サーバー
4.変更点を確認する
障害発生前後の変更は、重要な手掛かりになります。
- 設定変更
- 機器交換
- バージョンアップ
- 回線工事
- ファイアウォールポリシー変更
- サーバー変更
- 証明書更新
5.復旧と原因調査を分ける
緊急時は、原因の完全特定よりもサービス復旧が優先される場合があります。
そのため、次の2つを分けて考えます。
- 暫定対応:通信を復旧させる
- 恒久対応:原因を除去して再発を防止する
障害対応で単価が上がる理由
障害対応ができる人は、顧客の損失を直接減らせます。
システム停止時間を短縮できれば、売上損失、業務停止、問い合わせ増加、信用低下などを抑えられます。
つまり障害対応力は、技術力であると同時に、顧客の事業リスクを下げる能力です。
4.技術を顧客や関係者へ説明する能力
4つ目は、顧客説明と調整の能力です。
ネットワークエンジニアは、技術者だけと会話するわけではありません。
実際の案件では、次のような人と関わります。
- 顧客の情報システム担当者
- 顧客の現場担当者
- 営業担当者
- プロジェクトマネージャー
- サーバー担当者
- クラウド担当者
- セキュリティ担当者
- 回線事業者
- 海外ベンダー
技術的に正しい説明でも、相手に伝わらなければ仕事は進みません。
例えば、顧客へ次のように説明したとします。
VRRPでデフォルトゲートウェイを冗長化し、トラッキングによってアップリンク障害時にプライオリティを変更します。
技術者には伝わりますが、非技術者には理解しにくい説明です。
顧客向けには、次のように翻訳できます。
通常使用する機器が故障した場合、自動的に予備機へ切り替わる構成にします。機器だけでなく、外部回線側の障害も検知して切り替えるため、通信停止の可能性を下げられます。
高単価のエンジニアは、技術用語を使わないのではありません。
相手に合わせて、技術の粒度を調整できます。
技術を4つの価値へ翻訳する
顧客へ説明するときは、技術を次の観点に変換します。
技術からコストへ
- 運用作業をどれだけ減らせるか
- 機器費用や回線費用はいくらか
- 将来の増設費用を抑えられるか
技術からリスクへ
- 障害の発生確率を下げられるか
- 障害時の影響を小さくできるか
- 情報漏えいを防げるか
技術から生産性へ
- 利用者の作業時間を短縮できるか
- 運用担当者の負担を減らせるか
- 手作業を自動化できるか
技術から顧客体験へ
- 通信品質を改善できるか
- サービス停止を減らせるか
- 拠点やリモート環境から快適に利用できるか
ネットワーク技術だけでなく、顧客説明、障害報告、設計書、提案などを学ぶことが、市場価値向上には重要です。ITジャンプでも、技術力、ビジネススキル、英語力、キャリア、実践ケースを分けながら、相互に関連づけて扱う設計としています。
説明力を高める練習
学習した技術を、次の3パターンで説明してみましょう。
- 新人エンジニア向け
- 顧客の情報システム担当者向け
- 技術に詳しくない経営層向け
同じ内容を相手に合わせて説明できれば、実務での調整力も高まります。
5.希少性のあるスキルと実績を証明する能力
5つ目は、他のエンジニアとの差を作り、その価値を証明する能力です。
ネットワークの基礎だけでも仕事はできます。
しかし、より高い単価を目指す場合は、ネットワークに隣接する領域を身につけることが重要です。
単価につながりやすい隣接領域
クラウド
- AWS
- Microsoft Azure
- Google Cloud
- VPC・VNet
- VPN・専用線接続
- ロードバランサー
- クラウドファイアウォール
- ハイブリッドクラウド
オンプレミスとクラウドを接続できるエンジニアは、対応できる案件の幅が広がります。
セキュリティ
- ファイアウォール
- IDS・IPS
- Zero Trust
- SASE
- SSE
- VPN
- 認証・アクセス制御
- ログ分析
ネットワークとセキュリティは密接に関係しています。
通信を通すだけでなく、「誰に、どの通信を、どの条件で許可するか」を設計できると価値が高まります。
自動化
- Python
- Ansible
- REST API
- Git
- Infrastructure as Code
- 設定情報の自動取得
- コンフィグ差分確認
- 試験の自動化
大量の機器を手作業で設定するのではなく、自動化によって作業時間や設定ミスを減らせる人は、より大きな環境を担当できます。
英語
- 海外ベンダーの公式資料を読む
- 英語でエラーを検索する
- 海外サポートへ問い合わせる
- 英語の技術会議に参加する
- RFCやリリースノートを確認する
英語が使えると、日本語情報が少ない製品や新しい技術にも対応しやすくなります。
スキルだけでなく「実績の証明」が必要
高度なスキルを持っていても、職務経歴書や面談で説明できなければ評価されません。
次のような表現だけでは、担当範囲が伝わりにくくなります。
ネットワーク機器の構築を担当しました。
代わりに、次のように具体化します。
20拠点を接続するWAN更改案件において、詳細設計、ルーター設定、単体・結合試験、移行作業を担当。既存経路を調査し、移行時の通信断を最小化する手順を作成した。
実績を説明するときは、次の5項目を入れます。
- どのような案件だったか
- どの範囲を担当したか
- どのような課題があったか
- 自分がどのように対応したか
- どのような成果が出たか
高単価になるのは、技術を持っている人だけではありません。
技術を使って出した成果を、相手が評価できる形で示せる人です。
5つの能力を自己診断するチェックリスト
次の項目について、「できる」「一部できる」「できない」で確認してみましょう。
① ネットワーク技術力
- TCP/IPの通信の流れを説明できる
- VLAN、STP、OSPF、BGPの役割を説明できる
- パケットキャプチャーから通信状態を確認できる
- 設定変更の影響範囲を予測できる
- 機器が変わっても基本的な調査ができる
② 設計力
- 顧客要望を技術要件へ変換できる
- 複数の構成案を比較できる
- 基本設計書や詳細設計書を作成できる
- 冗長化や監視の設計ができる
- 設計理由を説明できる
③ 障害対応力
- 事象と影響範囲を整理できる
- レイヤーごとに切り分けられる
- 原因の仮説を立てられる
- 暫定対応と恒久対応を分けられる
- 障害報告書を作成できる
④ 顧客説明・調整力
- 技術用語を相手に合わせて言い換えられる
- 会議で課題やリスクを説明できる
- 顧客へ選択肢を提示できる
- 関係者の役割と期限を整理できる
- 問題発生時に早めに報告できる
⑤ 希少性・実績証明力
- クラウド、セキュリティ、自動化のいずれかを扱える
- 英語の公式ドキュメントを検索できる
- 自分の担当範囲を具体的に説明できる
- 課題、行動、成果の順番で実績を話せる
- 職務経歴書に数値や規模を記載できる
「できない」が多かった領域が、次に伸ばすべき能力です。
すべてを同時に学ぶ必要はありません。
現在の担当業務に近く、実務で試しやすい能力から伸ばしましょう。
経験年数だけでは単価が上がらない理由
経験年数は、一定の評価材料になります。
しかし、同じ業務を繰り返しているだけでは、担当できる範囲は広がりません。
例えば、5年間ネットワーク監視を担当していても、次の経験がなければ設計案件では評価されにくくなります。
- 要件ヒアリング
- 構成検討
- 設計書作成
- 機器設定
- 試験計画
- 移行作業
- 障害原因分析
- 顧客説明
市場で評価されるのは、「何年間働いたか」だけではなく、何を一人で任せられるかです。
そのため、経験年数を増やすことよりも、担当範囲を少しずつ広げることが重要です。
資格を取得しても単価が上がらない理由
資格は、基礎知識を証明する手段として有効です。
しかし、資格を取得しただけで、実務能力が自動的に身につくわけではありません。
顧客が案件参画者に期待しているのは、試験問題に正解することではなく、現場の問題を解決することです。
資格を単価につなげるには、学習内容を次の成果物へ変換しましょう。
- ネットワーク構成図
- 検証手順書
- パケットキャプチャー分析
- 障害切り分け表
- 設計比較資料
- 試験項目書
- 技術説明資料
- ポートフォリオ
例えばCCNAを取得した後は、VLAN、OSPF、ACL、NAT、VPNなどを組み合わせた検証環境を作り、構成と設計理由を説明できるようにします。
資格はゴールではなく、実務能力を身につけるための入口です。
単価を上げるための優先順位
単価アップを目指す場合、最初から難しい技術へ飛びつく必要はありません。
次の順番で担当範囲を広げると、実務経験につなげやすくなります。
ステップ1:担当作業の目的を理解する
まずは、現在行っている作業について説明できるようにします。
- なぜこの作業を行うのか
- どの通信に影響するのか
- 失敗すると何が起きるのか
- どのように正常性を確認するのか
ステップ2:障害切り分けに参加する
アラート確認やログ取得だけで終わらず、原因の仮説を考えます。
先輩がどの情報を見て、どのような順番で判断しているかを記録しましょう。
ステップ3:設計書や試験項目書の一部を担当する
最初から基本設計全体を任される必要はありません。
- VLAN一覧
- IPアドレス表
- パラメーターシート
- 単体試験項目
- 構成図の更新
このような一部分から設計工程へ入れます。
ステップ4:顧客説明や会議に参加する
会議では議事録を取るだけでなく、次の内容を確認します。
- 顧客が重視している条件
- 技術者がどのように説明しているか
- どのような質問が出るか
- どの時点で課題やリスクを報告するか
ステップ5:隣接領域を1つ追加する
ネットワークに加えて、次のうち1つを選びます。
- クラウド
- セキュリティ
- 自動化
- 英語
複数を浅く学ぶよりも、現在のネットワーク経験と組み合わせられる領域を1つ深める方が効果的です。
まとめ:単価を決めるのは「任せられる仕事の大きさ」
ネットワークエンジニアの単価を決める5つの能力は、次のとおりです。
- ネットワーク技術を理解し、説明する能力
- 顧客要望を設計へ落とし込む能力
- 障害を切り分けて解決する能力
- 技術を顧客や関係者へ説明する能力
- 希少性のあるスキルと実績を証明する能力
単価を上げるために、すべての技術を知る必要はありません。
重要なのは、現在よりも少し広い範囲を任せてもらえる状態を作ることです。
手順書どおりに作業するだけの状態から、作業の目的を説明できる状態へ進む。
次に、障害を切り分けられるようになる。
さらに、設計理由を説明し、顧客と調整できるようになる。
この積み重ねによって、担当できる工程が広がり、代替されにくいエンジニアになります。
技術を知っているだけでは、市場価値にはなりません。
技術を使って問題を解決し、相手に説明し、その成果を証明できて初めて市場価値になります。
まずは5つの能力を自己診断し、最も不足している能力を1つ選んでください。
その能力を、次の案件や現在の業務で使える具体的な成果物へ変えることが、単価アップへの第一歩です。

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